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「桜、ヘビなんか恐いのか?」
意外だったのか、鉢屋が目を丸くしているから、桜はばつが悪いような気もしたけれど、恐いものは恐いので、うなずくしかなかった。

「火薬も恐いって言うし……どうやら、私の勘違いか」
そう言われたのはよかったのだが、次いで頭を撫でられたことに、桜は憮然とする。
この年で、ということはないが、年下に頭を撫でられるのは釈然としないものがある。
桜の表情に気づいたのか、鉢屋がハハハッ、と軽快に笑うから、それも何だかおもしろくない。
再度頭を撫でる鉢屋は、明らかに楽しそうで、これはまたおもちゃを与えられた子供のようだと思えた。
「凄く居心地が悪いんですが」
「いやあ、桜、かわいいなあと」
けろっとしたような顔で、そんなことを言うから、つい呆気に取られる。
ヘビも火薬も恐いのでは、忍者としては大変だと言いたいのだろうが、恥ずかしくて仕方がないのも本当のことだった。



忍術学園内に落とし穴が多いというのは、わかっているつもりだった。
だから目印は見落とさないようにしていたのだが、中には何もないのに落とし穴があったりして、そこに落ちるのは低学年だったり、不運委員といわれる保健委員会が多かったりするが、もちろん例外もたくさんある。
そのとき、桜は足元には注意しておらず、少し先の辺りに富松の姿が見えたから、声をかけることにばかり、気を取られていた。
「富松くん!」
よく見えるように大きく手を振れば、富松が気づいてこちらに歩いて来るのが見えたから、桜もそちらに向かって歩き出したのだが、踏みしめた地面がグッと沈んだと思った瞬間、視界がぐるっとまわった。

何が起きたのかわからなくて、でも背中が凄く痛かったし、気づいたら自分が凄い格好をしていたから、頭がだんだんとはっきりしてくる。
これは、もしかしなくても落とし穴に落ちたのではないかと、そんな結論に到った。
「桜、大丈夫か?!」
頭上から、心配そうに富松がのぞき込んでいるのを見たら、やはりそうだとしか思えない。
深さはあまりなかったけれど、少し大きかったために、桜は背中から落ちたみたいだった。

「ほら、つかまれ」
そう言いながら出された手を握れば、富松が凄い力で引っ張り上げてくれる。
桜より背は低いのに、力は倍以上だ。
「あーあ、泥だらけ。怪我はしてねえか?」
背中の辺りをパタパタと叩いて汚れを落としてくれながら、富松が聞くから、桜はあちこち動かしてみるが、大丈夫そうだった。



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