31



ここでは、燃やしたりするのだろうか。
よくたき火をやっているイメージがあったのでそう思ったのだが、果たしてどうだろうか。
誰かが通ったら聞いてみようと思いつつ、とりあえず掃除だけは終わらせておこうと思った。

懸命にざかざかと掃いていれば、正門を叩く音が聞こえて来たので、誰か来たんじゃないかと気がついた。
まわりを見れば誰もいなかったため、ここは自分が出なくてはと、桜はほうきを手にしたまま、通用口を開けて外に出てみる。
すると、そこに立っていたのは山田先生の一人息子である山田利吉だった。
「……どちら様でしょうか?」
初対面なのでそう聞けば、利吉も桜のことは初見だったからか、自分は山田伝蔵の息子だと、丁寧にあいさつしてくれる。
「父に用があって立ち寄ったんです」
と、そう言うから、桜は利吉を中に招き入れ、小松田が正門の柱にかけて行ってくれてた入門票にサインをしてもらった。

入門票を再び同じ場所にかけ直していれば、利吉がそんな様子をジッと見ているから、桜は首を傾げてしまう。
「……あの、何か……?」
「いや。きみのその制服、三年生のだよね?」
女の子ならくの一教室の制服じゃないか、と聞きたいのだろうか。
利吉なら、忍術学園のことはよく知っているし、不思議に思うのも無理はない。
「はい、三年は組に入りました新実桜と申します。父から徹底的に忍術を学ぶようにと言われたので、無理をいってこちらに入れていただいたんです」
だからくの一ではないのだと言えば、学園長の性格もよくわかっているからか、利吉は苦笑しただけで、それ以上の追及はして来なかった。

「山田先生をお呼びして来ましょうか? それとも、お部屋までご案内しますか?」
山田先生に用事があると言っていたので聞いてみれば、利吉はいや、と首を横に振る。
「場所はわかってるから、自分で行くよ」
そう言って利吉は歩き出すけれど、ちょうどそのとき、向こうから山田先生が歩いて来たため、すぐに足を止めることになる。
「父上!」
笑顔になって利吉が近寄って行くところを見ると、本当に山田先生が大好きなんだなと思わずにいられなくて、それは微笑ましい限りだ。
仲もいいし、父親を素直に尊敬できるのも凄く素敵で、にこやかに話す山田親子を見ていると、とても羨ましく思えた。

自分のところも、父親とは仲がいいほうだと思っている。
仕事は忙しいようだけれど、それでもたくさん話をする親子だと自負している。



[*前へ] [次へ#]

31/120ページ


ALICE+