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数人といっても、せいぜい三年は組の二人と、五年ろ組の三人だけだが、前者は桜を呼びに来たところだったし、後者は授業前で移動しようとしていてたまたま、ということのようだった。

「そんなに寂しいなら、私が兄代わりになってやろうか?」
正門前でつかまって何を聞かされるのかと思えばそんなことで、桜は鉢屋にわからないように、こっそりため息を吐く。
残念ながら、鉢屋では兄代わりにすらなれない。
年齢が明らかに無理だからだ。
すると、鉢屋は持ち前の勘のよさで桜が答えを返さない理由に気がついたのか、言い直してくれる。
「……弟代わりで手を打ってもいい」
とても不本意だが、と鉢屋は言いながらも、不本意そうにはさっぱり見えなかった。
多分、いまだに鉢屋も不破も、桜が自分たちより年上かもしれないと思っているっぽいし、だから弟と言ったのだろうか。
弟なんて考えたこともないが、鉢屋がもし自分の弟だったらどうだろうと、桜は少し想像してみた。

「……どっちも遠慮しておきます……」
鉢屋が兄弟になるなんて、きっと凄く大変だろうなと思ったので桜がそう答えれば、不満そうな顔をされた。
「そんじゃ、おれが兄ちゃんになってやるよ」
鉢屋が断られたからか、すかさず竹谷もそう言ってくれたけれど、年齢のことを考えなくても、竹谷は兄という感じではないなと思えた。
いろいろ頼りにはなりそうなのだが、桜からしてみると竹谷は弟にしたいタイプだ。
だけど、そう言ったらがっかりするかもしれないと、桜は曖昧に笑ってごまかしてみる。
弟になら、という意味だったが、どっちみち兄は嫌だと言っているようなものだから、鉢屋が不服そうに口を開く。
「だったら、誰ならいいっていうのさ」
「……五年生なら、久々知先輩ですね」
選べというなら、久々知みたいな人が兄ならうれしいと思うので、桜は限定で言ってみる。
「五年生だけじゃなかったら?」
興味があったのか、不破までもがそう聞くので、桜は首を傾げる。
「うーん……特に、思いつきません。皆さんの性格を知っているというわけではないので」
でも強いて言うなら、富松は同じ学年とは思えないほど頼りになるから、富松だと答えておいた。



ようやく夏休みになる日、桜はうきうきしながら、どの着物にしようか鏡の前で迷っていた。
雑渡に買ってもらって持って来た着物はいくつかあって、この学園に来たときに着て来たものを抜かしても、いろいろと目移りしてしまうくらいだった。



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