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途中で休んだりするだろうから、一番上等なのは着ないほうがよさそうだったので、その下くらいの質の着物にしておく。
腰紐は買ってもらったまま使っていないのを引っ張り出し、あとは髪も背中で結び、きちんと身支度を整える。
本当は化粧ができればよかったが、さすがにそれはまずかったのでやめておいた。

意気揚々と出てくれば、正門前で鉢屋たち五年生グループに出会った。
朝食後に着替えて出て来たこともあり、同じタイミングなのはもう仕方がない。
「帰るだけなのに、そんなに気合い入れてどうするのさ?」
鉢屋の質問に、思わず桜がフフフ、と上機嫌に笑ってしまえば、とっても嫌な顔をされた。
気持ち悪い、という鉢屋のつぶやきは聞かなかったことにしておく。
「……もしかして、大事な人でもいるんじゃない?」
裏腹に、不破がにこやかな顔でそう聞いてくるが、桜はそれも同じように笑ってやり過ごした。
突っ込まれるのは、それなりにまずい。
「そういえば制服以外って初めて見たけど、可愛いね」
よく似合ってる、とさらに割り込んで来たのは尾浜で、桜は目を丸くする。
にこにこ笑われて面映ゆかった。
「……ありがとうございます」
小さい声で礼を言えば、尾浜はどういたしまして、とさらに笑うし、鉢屋には頭をぐりぐり撫でられてしまう。
「なに喜んでんの」
と、咎めるような言い方をされたけれど、鉢屋のお陰で照れくさい気持ちが少し和らいだので、桜はホッとした。


帰る道順は特に聞いていなかったが、確か途中まで迎えをやるからと雑渡が言っていたので、それはきっと、学園に編入するときに尊奈門が送ってくれた、あの草地の辺りなのではないかと思っていた。
だから桜は五年生とは門の前で別れると、一人であの草地まで人目を忍んで歩き続けた。
忍術学園を目指したときとは違い、草地に着いたのはあっという間で、桜はきょろきょろと辺りを窺いながら、その中に足を踏み入れる。
恐らく、尊奈門が迎えに来るのではないかと思っていたのに、草地に入った途端に目の前に現れた人物に、桜は目を丸くした。
「こっ……高坂さん?!」
まさかの人にびっくりしていれば、高坂は薄い笑みを浮かべてみせた。
「おかえり」
何の衒いもなく出された言葉に、桜は泣きそうになる。
そう言ってくれるということは、桜は高坂たちのいる場所に帰って来てもいいということだろうかと、考えずにいられなかった。

その場所からは高坂にも抱えられるようにして、桜はタソガレドキ忍軍の屯所へ連れて行かれた。



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