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本当に黄昏甚兵衛も原因ではあったが、理由のもう半分は雑渡がいま言った通りだと知り、桜は非常に複雑だった。
確かに、忍術学園に行ってからは、違う意味では警戒していたけれど、ここで取り繕っていたことに関しては、全く気にしていなかった。
正に、ボロが出ていたかもしれない。
「だが、記憶が混乱してるっていうのは本当のことだったみたいだね。混乱っていうより、あやふやとか、曖昧っていうんだろうけど」
と、雑渡が不意にそう言ったので驚いた。
桜には心当たりがなかったから、首をひねって、自分の言動を振り返るが、やっぱりわからなかった。

話が長くなったからか、いつの間にか来ていた尊奈門が茶を入れてくれたので、桜がそれに礼を言っていれば、雑渡が説明するように言う。
「忍術の知識はそれなりにあるくせに、手裏剣で怪我をしたり、火薬や蛇を恐がったりと、非常に鈍すぎる。気配に敏感だったり、剣術が得意だったりするのに、夜眠れなくなったり、庭で泣き出してみたり、安定しない。ちぐはぐ過ぎる」
だから記憶があやふやで曖昧だと結論づけてくれたようだが、桜はそんなことよりも、雑渡が自分の忍術学園での行動を知りすぎていることに驚いていた。
さすがとも思うけれど、ほんの少し恐さを感じたのも本当のところだった。



夏休みというくらいだから夏なのだが、暑いわりには過ごしやすいことに、桜は小さな感動を覚えていた。
クーラーや、せめて扇風機がないと過ごせないかと思いきや、この辺りは外にいれば風が涼しいので、扇ぐものがあれば桜はそんなに気にならなかった。
以前、ここにいたときは外に出ては駄目だと言われていたが、いまが夏だからなのか、それとも雑渡の警戒が取れたからなのか、庭で涼んでいても何も言われなかった。
それに雑渡は本当に凄くやさしくて、桜にと町で扇子を買って来てくれたので、中にいるときはそれで自分に風を送っていた。
以前と違い、手が空いているときはいろんな手伝いを買って出たり、宿題をやったり、小太刀の鍛練をしたりと、思ったより充実していたのではないかと思えた。

「お前は、ここに座っているのが本当に好きだねえ」
暇があると、榑縁に座って庭や空を見ているからか、そう言って雑渡が寄ってくる。
普段、雑渡は忙しいので、頻繁には顔を合わせないのだけれど、たまにこうやって暇そうに話しかけてくれるのだ。
「静かだなあと思いまして」



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