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そう言えば、きり丸はどうぞどうぞと中に入れてくれ、桜は土井先生にあいさつしてから上がらせてもらい、簡単に事情を説明した。
「……そういう訳なのですが、今日はこちらに泊めていただけませんか?」
桜が頼めば土井先生が快く了承してくれたので、今夜の宿は確保でき、翌日の昼にもう一度、小松田屋を訪れると、預けた扇子はきちんと直っていた。

そんなわけで、桜は小松田屋から一足先に登校することになった。
どうせなら土井先生たちと登校したほうがよかったのかもしれないが、きり丸はバイトがまだあるようで行けないと言われてしまったため、一人で行くことにした。
まだ夏休みは数日あるし、きっと問題はないのだろう。
「……あれ? 小松田さん、もう来てらっしゃったんですか?」
学園の正門ですでに仕事をしている小松田を見て、桜は目を丸くする。
昨日、桜が小松田屋に行ったときには確かにその場にいたので、びっくりしたのだ。
「そうなんだよね。みんなより少し早めに登校しないと、吉野先生に怒られちゃうからねえ」
だからあの後すぐに出掛けたのだとのんびり返されるが、それだけ聞くと、吉野先生に怒られるから早く登校したかのようで、何て答えればいいかわからなかったので、桜は曖昧に笑っておいた。

制服に着替えて、自習か自主トレのどちらかをして過ごしていればいいとは思ったが、いまいち勝手がよくわからないから、忍たまの友を持って、桜はとりあえず部屋を出て来ていた。
一年か二年の先生がいたら、ご指導願おうと、そんなつもりだった。
しかし、こういうときに限ってなかなか先生方には会わなくて、さてどうしたものかと考えている最中に、竹谷と伊賀崎の二人に会った。
この組み合わせは確か、よく見る光景だったなあと考えていた桜は、先に二人に声をかけられて考えを中断された。

「おっ、桜! もう登校して来たのか?」
そう言った竹谷とは対照的に、伊賀崎はごくマイペースに口を開く。
「桜〜。アオバアリガタハネカクシの団体が来なかったか?」
唐突だったのと、聞いたことのない名前に、桜は目をしばたたかせる。
「アオ……何だって?」
「アオバアリガタハネカクシ。団体で散歩に出て行ったまま、帰って来ないんだ」
と、伊賀崎は何でもないことのように言うが、それはいつも通り、逃げたということだとわかっているので、桜は思わずまわりを見てしまった。
虫は嫌いではないが、毒が怖い。



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