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ここへ来てからちゃんとした体術を習い始めてはいるが、さすがに五年生の相手になどなるわけがなかった。

「組み手は無理ですが、剣術でよろしければ、お相手できますよ」
実技として何かやりたいのかもしれないと、とりあえず桜がそう言ってみると、思いの外、竹谷は食い付いた。
「そういえば、桜は剣術が得意だって言ってたな?」
いつも小刀を持っているくらい、と竹谷は言うが、桜のは剣術とは少し違う。
だが、忍者が使うのも短刀が多いし、その点では変わらないかもしれない。
「じゃあ、ちょっと相手してくれ」
そう言ったが早いか、竹谷は木刀を借りて来ると言って、あっという間に姿を消してしまった。

木刀は桜も使い慣れていたので、竹谷との勝負は楽しかった。
力では敵わないので隙をついて打ち込むが、竹谷は反射神経がいいのでなかなか決定打が打てず、少々長引きはしたものの、何とか勝つことができた。
辛勝とはずいぶん久しぶりで、最近、忍術ばかりに夢中で小太刀のほうは疎かになりがちだったのを思い出し、これはまた鍛練を積まねばと、桜は荒い息を吐きながらそんなことを思っていた。

「……ずいぶん、楽しそうじゃないか」
割り込んで来た声に顔を上げると、不破と鉢屋の二人がいた。
ついさっき登校して来たようで、いまはもう制服に着替えてしまっている。
「……三郎、雷蔵! 久しぶり〜」
汗だくになったのか、手拭いで顔を拭いていた竹谷が手を挙げれば、二人はそれに応えるように手を挙げ返したりして、男の子のあいさつはドライだと思いつつ、桜も汗をかいたので、頭巾を外すと、手拭いで自分を扇ぐ。
やはり、夏は身体を動かすだけで、すぐ暑くなってしまう。
額に張りついた前髪をかき上げて直してから、桜も不破と鉢屋の二人にちゃんとあいさつをした。

「桜。私とも手合わせしてくれないか」
どうせなら、このまま鍛練をしようか考えていれば、そう鉢屋が申し出て来たが、桜は丁重にお断わりする。
「申し出は大変光栄なんですが、腕が鈍っているようなので、また今度では駄目ですか?」
竹谷が決してどうこうということではなく、鉢屋の武芸の腕が優れているのはわかっていたので、さすがにいまの桜では、鉢屋の練習相手には不充分だった。
「そう? 充分、強かったと思うよ?」
六年生にも引けを取らないくらいではないかと、そう不破は言ってくれるし、竹谷もその通りだとうなずいたけれど、桜は妥協できなかった。



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