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鉢屋は何か言いたそうにしていたが、じゃあ今度な、とあっさり引き下がってくれ、その代わりのように唐突な質問をくり出して来た。
「そういえば、夏休み、楽しかったのか?」
帰省する前に五年生のみんなとは会っていたので、思い当たることでもあるのか、不破も竹谷も桜を振り返る。
「はい。心身共に、存分に癒されて来ましたよ」
忍術学園もそれなりに穏やかに過ごせるが、やはりタソガレドキのあの場所は、特別ではないかと思う。
あの縁側にはこの休み初めて行ったが、桜にとって一番、心静かに過ごせる場所になっていた。

「それで、大事な人には会えた?」
不意にそう聞いて来たのは不破で、ちょうど雑渡のことを考えていた桜は、とっさに頭がまわらなかった。
なぜ不破がそんなことを聞くのか、わからなかったのだ。
だがすぐに、夏休み前にも大事な人の話が出たのを思い出し、同じように濁すために、桜はにっこり笑ってみせる。
「大事な人がいるとは言ってませんよ?」
「……あれ? そうだった?」
桜の言葉に、不破は瞬いて首を傾げるから、この人は天然も入っているのだろうかと、つい失礼なことを思う。
「不破先輩の仰る意味での大事な人というのでしたら、ですよ。父様も、大事な人という括りになりますしね」
きっと不破が聞きたかったのは恋人とか、その類なのだろうとは思うのだけど、帰省の流れでその質問に答えるわけにはいかなかった。

学園長の思いつきに振りまわされる、とよく聞くが、桜が編入してからはそんなことがなかったので、あれは大げさな表現かと思っていたのが甘かった。
せめて遠足とか、学園祭とか、まだ穏便に済みそうなものを思いついてくれたらよかったのだか、これがまたある意味、物騒な思い付きをされてしまったので堪らないのだ。

「……さ、三反田くん。もう一回言ってくれる?」
言われた意味が飲み込めずに聞き返せば、三反田は眉尻を下げ、いまの言葉をくり返す。
「だからね、混合トリプル大規模奪取競争だって」
「…………頭悪い名前とか思うのは気のせい?」
三反田の言葉を聞いて、思わず桜がボソッとつぶやいてしまうと、後ろで聞いていたらしい浦風にため息を吐かれる。
「それ、学園長先生に聞かれたら、相当怒られるぞ」
確かに浦風の言う通りだったので、桜は首をすくめながら苦笑してみせる。
悪気はなかったのだが、ついポロッと出てしまった。

「で、どういうルールなの?」



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