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「確かに腕は立つからな。強敵であることは間違いないが」
戦ったことがあるのを知っているから、桜はそれには突っ込まなかったが、タソガレドキ城に忍び込むなら確かに雑渡が一番の砦になるだろう。
特に桜は顔を合わせればすぐにバレてしまいそうだった。

タソガレドキ忍軍が寝泊まりしている、あの建物がどの辺りにあるかは知らないが、多分、城の中にあることだけは桜にも容易に想像がつく。
ただ、桜はあの建物以外を知らないので、鉢屋たちと条件はまるきり同じではないかと思われた。
「指定されてるものは軍扇、もしくは軍配団扇となっている」
引いたものをそのまま持って来たのか、久々知が見せてくれた紙には確かにそのように書いてある。
忍び込む場所はまた別のくじだったようで、タソガレドキ城と書かれた紙がさらに二枚重ねてあった。

「どっちも大将が持つものですよね?」
そう聞いたのは庄左ヱ門で、久々知がうなずくのを横目で見ながら、桜は軍扇と軍配団扇と書かれた紙が気になっていた。
軍扇は多分、扇子だろうと予想がつくが、もう一つがわかりそうでわからない。
「……軍配団扇って、何だっけ?」
聞いたほうが早いかと思って口にすれば、池田が軍配団扇と書かれた文字の隣に絵を描いてくれた。
「こういう、ひょうたん型のものですよ」
絵を見てもわからないかと思ったが、それは相撲の行司が持っている軍配と同じものであったので、桜はなるほど、とすぐに、納得することができた。

作戦会議とはいっても、話し合ったのはどれも大したものばかりではなくて、結局、桜たちは早々に出発することにした。
タソガレドキ城に忍び込むのは容易いことではないというので、失敗したときのことを考え、時間は有効に使うことにする。
一年生や桜辺りの力量では、やはり忍び組頭である雑渡を相手にしたら、簡単に見つかってしまいそうだったから、最悪、久々知と鉢屋の五年生二人と、それをフォローする形で池田が行くことも考えたほうがよさそうというのが、全員一致の見解だった。
だから、時間はあればあるだけよかったのだが、その考えはタソガレドキ城の近くまで来たら一変した。

どうやら、タソガレドキ城では下働きの娘を募集しているらしく、それを見つけた鉢屋が貼ってあった紙を剥がして持って来て、それを見ながら考え込んでいるところからすると、応募する気らしい。
何があったのかは知らないが、募集人員は一人や二人ではなかったので、自分たち六人では多すぎるだろうと思ったものの、鉢屋も久々知も無理にねじ込む気のようだった。



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