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豆腐料理を調べて練習しておいて、本当によかった。
ただ砂糖はまだ高いようなので、忍術学園に帰っても作れるかはわからなかった。
それに鉢屋には軽く睨まれてしまったので、久々知は全く気にしてはいないようだったが、桜はもう一度すみません、と謝り、今度は本来の目的が疎かにならないよう、頑張ろうと思った。



夕食を食べ終えるころ、急に御膳を下げてくるようにと言われた。
黄昏甚兵衛のほうではなく、忍軍の居間だと聞き、桜は気が進まなかったのと皿洗いの予定があったから、始めは断ってしまった。
だが上から、どうしても料理を作った桜に行ってほしいのだと言われ、何か気に召さないことがあったのかと思ったので、行ってみることにした。
「桜。庄左ヱ門と伊助の二人を連れて行くといい」
歩き出すとすぐに久々知がやって来てそう言うから、もしかして雑渡を警戒してのことだろうかと思いつつ、手は多いほうがいいので、桜は二人を連れて行くことにした。

しかし、桜が庄左ヱ門と伊助の二人と共にまた歩き出せば、今度は鉢屋が追い付いて来て、しかめっ面で注意を促す。
「何かあったら庄左ヱ門か伊助を走らせるかして、必ず連絡しろよ?」
何か、とは具体的に何なのかわからなかったが、危険な目に遭うのは勘弁だったので、きちんと約束する。
ただ何かあったら、と改めて聞いてしまうと、さっきまで全く緊張などしてなかった桜も、途端にカチンコチンに固まってしまい、庄左ヱ門や伊助に、心配されてしまったくらいだった。

「失礼致します」
板間に膝をつき、障子越しに一声かけてから開けると、桜は頭を下げたまま、御膳を下げに来た旨を告げ、スッと中に入り込む。
気配からわかっていたことだが、中にいたのは雑渡だけで、けれど膳の数は五つもあり、ついさっきまでそれと同数の彼の部下がいたのは窺い知れた。
「……新しく入った子だってね?」
もの問いたげな鋭い眼は、明らかに別のことを質問したそうにも見えたので、桜はするりとその視線から逃れる。
「はい、今日から入りました桜と申します」
すでに雑渡が自分に気づいているとわかっていたから、偽名を使う必要もない。
そのせいなのか、雑渡はそれにふーん、と興味なさそうな返事をしてみせ、桜が膳を持ち上げる様をただ見ていた。

膳を持った庄左ヱ門と伊助の後に続き、桜も素知らぬ振りで出て行こうとすれば、いつの間にかすぐ後ろにいた雑渡に腕をつかまれた。
「亥の刻、巽の隅櫓前で」
ごく小さな声が降って来て、桜は慌ててその顔を見上げたけれど、そのときにはもう雑渡は姿を消していて、確認をするどころの話ではなかった。



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