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亥の刻は調べて知っているが、方角までは頭がまわらなかったので、言われた場所がわからない。
隅櫓が四隅にある櫓なのはわかるから、巽は多分、方角だろうという予想は外れていない筈だった。
「庄左ヱ門。……巽って、どの方向だっけ?」
こそっと呼んで、目の前にいた庄左ヱ門に確認すれば、あちらです、と手だけで方向を示された。
日の出と日の入りの方角はちゃんと覚えているから、そうすると南東らしい。
あとで、他の方角もメモしておこうと思いつつ、桜は庄左ヱ門にありがとう、と礼を言った。

戻ると、もう誰もいなくて、この時間まで食堂は使わないだろうから、みんな寝間に引き上げてしまったのかもしれない。
庄左ヱ門と伊助の二人と共に、下げて来た膳の食器を洗っていれば、いつの間にか鉢屋たちが入って来ていたので、桜は茶を入れてから彼らのいる机に腰を下ろした。

「……どうだった、そっちは」
作戦会議の前にまず鉢屋にそう聞かれ、桜は特に何もなかったと前置きしてから、最後に雑渡に言われたことを話した。
「……そんなわけで、亥の刻には忍組頭は隅櫓にいますので、仕掛けるならそのときがいいんじゃないでしょうか」
きっと雑渡は、桜たちが何を狙っているかは知らないだろうが、それでも何らかが目的で侵入していると見当はついているだろうから、その上で桜を呼び出し、留守の時間を作ってくれたような気がしてならなかった。
「あの忍組頭と二人きりで会うのが危険だとわかってるのか?」
鉢屋は顔を顰めてそう言うが、桜はもちろん懸念していなかった。
「うまくやりますので」
ただ、根拠のないことは口にできなかったから、桜はそれだけ返しておいた。

軍扇が保管された場所は警備も厳しいようで、そこに侵入するのは、当然ながら久々知と鉢屋の二人が担当するようだった。
タソガレドキは敵が多いからなのか、全体的に見まわりも多く、軍扇をうまく持ち出しても、その後の逃走経路が問題だ。
門から続く塀沿いにも見まわりがいるようで、どこから城外へ逃げるかを先に検討しておくことにした。

「そういえば、桜先輩。料理しているときに、隣にいた男の人からいろいろ言われてませんでしたっけ? 見張りの目をかいくぐってどうのこうのって」
ふと思い出したように庄左ヱ門が言うので、そうだっけ、と首を傾げながら桜は記憶をたどる。
あのときは料理することに夢中だったので、それどころではなかったのだ。



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