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「曲者と、何を話して来たんだ?」
一部始終は庄左ヱ門と伊助に聞いたのだろうが、もちろん場所が離れていた二人に、雑渡と桜の話は聞こえていなかったようで、真っすぐな質問だった。
だけど、桜には答えられることがなかった。

「それは……お話しできることではないですから」
暗に聞くなと含ませれば、鉢屋が眉間にしわを寄せた。
後ろめたいという意味ではなく、恥ずかしくて口にできないという意味に取ってくれたようで、桜はホッとする。
人の口説き文句など、聞いても仕方がないので、突っ込んで聞くことはないからだ。
「……料理人の男にも誘われていたようだし、桜は本当に何しに来たのかわからないな」
突っ込んで聞かれる代わりに、そう鉢屋に言われてしまい、桜は言葉に詰まってしまう。
確かに、桜はその前にも鉢屋に注意されたばかりだったので、返す言葉がとっさに出なかったのだ。
気をつけようと思ったくせに、同じことを言われていたら世話がなかった。

「……でも今回は、桜先輩のお陰であの手強い忍組頭の注意をそらせましたから、役に立ったということになりませんか?」
割り込むように言ったのは庄左ヱ門で、それに乗っかるように久々知も続く。
「だな。あの忍組頭がいなかったのは、けっこう大きい」
だから助かったというような口振りに、鉢屋がおもしろくなさそうな顔をする。
二人が桜を庇った形になったのがいけないのかもしれなくて、とっさに口を開いた。
「で、ですが、あたしが何の役にも立ってないのは事実ですから、もっと勉強して来ます……!」
緊張感もきっと足りなかっただろうし、タソガレドキ城と聞いて浮かれていた自分がいけないし、庄左ヱ門や久々知に庇ってもらうようなことは、本当に何もしていなかった。

それからすぐに、桜たちはまた学園に向けて歩き出すことにした。
遅くなるのは構わないが、そこまでのんびりしているわけにもいかなかった。
もうすぐ学園という道で、一番後ろを池田と歩いていた桜はふと気配を感じて振り返り、微かに漂って来た火薬の匂いに顔を顰めた。
「桜先輩?」
桜の様子に気づいた池田も足を止めて振り返るが、ちょうど気配を探っているところだったので、返事ができなかった。

夜目はそんなに利かないが、気配で場所はわかるので目を凝らせば、ちらつく赤が見え、それが火縄銃のものらしいのがわかった。
だから振り返って、鉢屋たちにそれを報告したかったが、ちらついてる赤を見れば、その余裕はなく、銃口がどこに向いているか確かめることに必死だった。



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