52



白く微かな煙が上がるのが見えた瞬間、桜は地面を蹴って身体を捻りながら、前方へ飛んだ。
「伊助!!」
桜の叫ぶ声と、ガァンッ! と、火縄銃の発射音が上がるのは同時で、振り返ろうとした伊助に、その隣にいる庄左ヱ門を巻き込みながら飛び付いて、地面に転がる。
二発目が来るまでに間があるから、どうにか桜は体勢を直したかったが、それは無理そうだった。

「鉢屋先輩っ!!」
伊助と庄左ヱ門を背中に庇いつつ桜が叫ぶと、考えていたことが伝わったのか鉢屋が胸元から取り出したものを、火縄銃を撃った人物に向けて投げるのが見えた。
タソガレドキ城に侵入したのだから、一番の得意武器は持っているだろうし、だから多分あれはひょう刀で合っているはずだ。
「桜先輩! 大丈夫ですかっ?!」
少し離れた場所にいた池田が、そう言いながら走り寄って来てくれたので、桜はホッとしながらうなずく。
「池田くん。悪いんだけど、伊助と庄左ヱ門を連れて学園まで走ってくれる? ほら、門はすぐそこでしょ?」
すぐとは言っても、それでも五百メートルはあるだろうか。
しかし、桜はそこまで走るどころか、歩けるかも怪しかったので、池田に頼むしかなかった。

「……わかりました。二人のことは任せといて下さい!」
そう言うと、池田は渋る伊助と庄左ヱ門を連れ、辺りを警戒しながら、一目散に走り出した。
この場所からでは援護はできなかったが、火縄銃は他にはなさそうだったから、あとは池田たちの無事を祈るばかりだった。


「みんな、伏せろっ!」
池田たちが走り出すや否や聞こえた言葉に、久々知と鉢屋が反応して体勢を低くしたときだった。
火薬の強い匂いがして、それからちょうど火縄銃が撃たれた辺りの林で爆発音が上がり、一帯が一瞬明るくなったのが見えた。
火の手が上がったし、誰かが宝禄火矢を投げつけたらしい。
いまのは味方……?
そう桜が考えている間に、立花が姿を現した。
後ろに、兵太夫と伝七を連れている。
立花は座り込む桜の様子をちらりと見ると、主に鉢屋に向け、話しかけた。

「桜を連れて、先に行ってろ。ここは私たちで引き受けよう」
私たち、と鉢屋に向けて言うから、あとは久々知もだろうかと桜が考えていれば、ひゅんっ、と空気のうなりが聞こえ、振り返ればそこには手にした得物を振り回す中在家がいた。
近い場所にいたのか、それとも始めからいたのか、騒がしくなって来ていたので、気づかなかった。
「わかりました」
そう言って鉢屋がこちらを振り返ったので、桜は途端にビクッとした。



[*前へ] [次へ#]

52/120ページ


ALICE+