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叱られてから話していなかったし、さっきも結局、鉢屋に頼る形になってしまったので、少々気まずかった。

鉢屋は手拭いを取り出すと、それで傷口を覆うように縛ってから、桜を慎重に抱き上げてくれる。
「……もう少し、辛抱してな」
掛けられた声が思ったよりやさしかったから、桜が素直にうなずけば、鉢屋はそれを確認してから久々知を振り返る。
「兵助。援護と一年ボウズたちを頼む!」
中在家が連れていたのはきり丸の他に二年生の能勢もいたが、久々知はただうなずいただけだった。
鉢屋が学園に向けて走り出したので、桜は落とされないように、だけど彼に負担はかけないように、しがみ付いていることばかり注意していた。

正門をくぐれば、入れ替わるように先生方が二、三人、走り出して行く。
先に戻ったはずの池田たちが報告したのかもしれないが、少し距離があるとはいえ、学園の目と鼻の先なのだから、この騒ぎに気づいていてもおかしくなかった。

久々知たちと門の前で分かれ、鉢屋はそのまま桜を医務室に連れて行ってくれた。
入り口の戸を引き開けると、中には伊助と庄左ヱ門がいて、恐らく桜と共に地面に転がったときに、あちこちすりむいたのだろう。
「ごめんね、二人とも。もうちょっとやさしく対応すればよかったね」
自分にしてはめずらしく慌ててしまったことに桜が笑えば、二人には凄い勢いで否定されてしまった。
いわく、
「桜先輩のほうが大ケガですから!!」
と、いうことだ。
擦っただけだから、自分も大したことはないと桜は言おうとしたが、赤くなっている手拭いを前にして、それはできなかった。

弾が擦っただけとはいえ、出血は思ったよりもあったようで、覆っていた手拭いを取ると、桜の右足首は真っ赤だった。
ここには棒手裏剣入りの脚絆を巻いてあったから、それでいくらか傷は浅かったんじゃないかと、新野先生は言っていたが、ボロボロになっている脚絆を見れば、わからなくはなかった。
「しばらく、これを使うといいですよ」
そう言って新野先生が貸してくれたのは杖で、いうなれば桜のよく知っている松葉杖の役目を果たすものだった。
松葉杖ほど頑丈ではないだろうが、それでも杖があるとないでは、ずいぶん違うような気がした。

新野先生や、居合わせて治療を手伝ってくれた伊作に礼を言い、杖を頼りに桜が立ち上がろうとすれば、来たときと同じように鉢屋がひょいっと抱き上げてくれる。



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