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「ずいぶん高そうな扇子だが、贈り物か?」
飾ってあるのだから、もらいものかもしれないというのは容易にわかるのか、そう鉢屋に聞かれたけれど、桜は曖昧にしかうなずけなかった。

「贈り物というほどではないのですが……買っていただいたものです」
そう言ったら桜の持ち物は大概、雑渡に買ってもらったものなのだが、それは言うわけにはいかなかった。
「ふーん……」
と、鉢屋は興味がなさそうに返事をしたけれど、一瞬、瞳に鋭い光が浮かんだのを見逃さなかった。
しかし、その後すぐに鉢屋が部屋を出て行ってしまったので、それについての突っ込んだ質問はできなかった。


さすがにクタクタだったのか、布団に入るとあっという間に眠りに就いていた。
だが、習慣というのは恐いもので、いつもより遅くに寝たのに、朝起きたのはほとんど変わらない時間だった。
身支度を整えて食堂に行けば、やはり五年生たちと重なっていて、杖を使っているせいで盆をうまく持てずにいる桜を、久々知が手伝ってくれた。

「ありがとうございます、久々知先輩」
当たり前のように、久々知が自分たちの机の空いている場所に盆を置くことに苦笑しそうになりながら、桜は礼を言う。
「いや、いいよ。それより、具合はどうだ?」
昨日の今日だから、大して変わりはないとわかっているだろうが、久々知がそう聞くのは心配してくれているからだと知っていた。
「痛みはいまのところ、強くありません。ただ、杖に慣れるまでが大変そうです」
わりと杖を頼りにして歩くのが大変だからそう言えば、目の前にいた竹谷がおかしそうに笑っていた。

隣になった尾浜が腰を下ろすのを手伝ってくれたので、桜はようやく食事を始められた。
昨夜、桜たちと変わらない頃合いに帰って来たチームも多かったが、まだ今日になっても帰って来ていないチームもいるのに、五年生は全員揃っていたので、いつもと変わらない朝のようだった。
ちらりと見れば、斜め向かいに座る鉢屋は黙々と箸を進めているだけで口を開こうともしなかったから、久々知と迷ったが、やはり同じチームだったので、鉢屋のほうに質問を投げることにした。

「鉢屋先輩。あの、昨夜の襲撃は、何だったんでしょう……?」
襲撃といっても狙われたのは伊助たちで、あれも伊助たちが本当に狙われたのかも怪しかったが、とにかく危ないところではあったのだ。
「あれは、ドクタケの仕業だったらしい」
ようやくこちらを向いた鉢屋が、そう教えてくれたので桜は目を丸くする。



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