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「ドクタケ……ですか? なぜまた?」
あんなところで待ち伏せとは、ずいぶん気が急いた話だ。
しかし、本気というには火縄銃はあれだけだったようだし、他に殺傷能力の高い武器もなかった気がするし、急襲をかけたわりには甘い装備のような気がした。

「ドクタケに忍び込んだチームがね、木野小次郎竹高の張り子の馬を奪って来たらしくって、大慌てで取り返しに来たんだって」
だから本当は、ドクタケの狙いは別のチームだったのだが、彼らはどこのチームが張り子の馬を奪ったのか知らなかったので、居合わせた桜たちが襲われることになったのだと、鉢屋の後を受けて不破が教えてくれた。
「あの後、立花先輩の宝禄火矢と中在家先輩の縄ひょうで、あっという間にドクタケを蹴散らしたらしいよ」
先生方もすぐに駆け付けて下さったし、と尾浜もそう言ってから、桜の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
「桜には災難だったけどね」
にこにこと労るような笑みを向けられると、桜も頭を撫でられたことなど気にもならずに、つい顔がほころんでしまった。

「一年生を庇ったんだろ? よく頑張ったな」
竹谷までもがそう言ってくれたけれど、桜としては複雑だった。
「ですが、あれは鉢屋先輩と久々知先輩あってのことですから」
二人がいなければ、とてもじゃないが庇いきれなかったと思うからだ。
それに実質、タソガレドキ城に潜入したときには役に立っていないのだし、桜としては誉められた点なんてないとしか思えなかった。

食事を終えた後に浦風と三反田の二人と合流した桜は、そのまま彼らと教室に向かうことにした。
「教室が遠い……」
いつもは全く気にならない距離が倍は遠く感じるから、普段と違うというのは不便だ。
「焦らなくても、授業開始までにはまだ時間あるんだし、ゆっくりでいいよ」
と、浦風が言ってくれたので、桜はごめんね、と謝りながらもスピードを落とした。

ふと見れば、少し向こうを立花が横切って行くのが見えたから、桜は駆け寄れない代わりに、声を張り上げる。
「立花先輩!!」
声が届いたのか、桜が一歩進む間に立花がサッと近づいて来てくれた。
「どうした?」
「あの……昨夜は、ありがとうございました!」
真っすぐ見られると緊張するが、桜がそう言って頭を下げれば、立花はふわっと笑顔を広げる。
「……しばらく大変だろうが、しっかり養生しろよ」
小さい子にするように頭を撫でる立花の顔もやさしかったから、桜は急激に恥ずかしくなりながらも、温かい気持ちでいっぱいになった。



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