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ありがとうございます、とさらに桜が口にすれば、立花がふと思い出したようにつけ足した。
「そういえば、長次がお前には悪いことをしたと謝っていたぞ」
「な、中在家先輩が、ですか……? 謝っていただくようなことは、何もないと思うのですが……」
考えてみても心当たりが一つもないから桜が首を傾げれば、立花はさも有りなんとばかりに笑った。

「昨夜、ドクタケの城から張り子の馬を奪って来たのが、長次たちのチームだったんだよ」
そう説明されるが、あのとき中在家たちは立花たちと同じく、忍術学園とは逆の方向から来たように見えたので、桜は目を丸くする。
「では、ドクタケの人たちは中在家先輩たちを先回りしていた形になるのでしょうか?」
彼らは、忍術学園の生徒の誰が張り子の馬を奪い去ったか知らないだろうから、先回りも何もあったものではないのかもしれないが、そういうことだろうか。
「いや、あのとき長次たちは一旦、学園に戻っていたそうだ」
その後で、張り子の馬と一緒に奪って来たものを、きり丸が売りに出かけてしまったので、中在家と能勢で連れ戻しに行っていたらしい。
だから、忍術学園とは逆の方向から戻って来たというわけだと説明され、桜は合点が行くと同時に、きり丸の行動には苦笑するばかりだった。

「いずれにせよ、ドクタケの攻撃を受けたのは中在家先輩たちのせいではありませんし、私の怪我ももちろん、そうは思いません。ですから中在家先輩には、気になさらないで下さいとお伝えいただけないでしょうか」
桜が直接行って伝えるべきなのかもしれなかったが、いまは少々、融通が利かないのでお願いしてみると、立花はすんなりと引き受けてくれた。
「では、私は行くよ」
柔らかい笑みと共に姿を消した立花は華麗としか言い様がなく、思わず見惚れてしまい、話している間中、傍で待っていてくれた浦風と三反田の二人に急かされ、ようやく桜は我に返ったくらいだった。


授業の後に、桜は三反田と共に医務室を訪れた。
明日また見せに来て下さい、と新野先生に言われたと話したら、保健委員である三反田が付き添ってくれることになったのだ。
「ああ、来たね」
医務室には薬草棚をあさっている伊作しかいなくて、桜は腰を下ろしながら、新野先生の所在を聞いてみる。
「新野先生は、たったいま薬草を採りに行かれたところだよ」
だからしばらく帰って来ないと聞かされ、桜は自分のタイミングの悪さにため息をこぼした。



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