06



まだ肝心な話はほとんど聞けていなかったから、桜は内心少し焦ったが、代わりに現れた男が諸泉尊奈門だとわかったので、全身に入れていた力をふっと抜いた。

「諸泉尊奈門です」
打って変わって、あっさり名を口にされ、自分への警戒はとけたのだろうかと、桜はホッとする。
「質問には私が答えます」
質問解禁だと言ってるも同然の言葉に、桜は俄然やる気が湧いた。
聞きたくて仕方がなかったことが、たくさんあるのだ。
どれにしようか迷ったけれど、差し当たって確認しなければならない。
「いまって、何時代なんですか?」
そんな聞き方で答えられるかはわからなかったが、とにかく桜はそれが気になっていた。




何がどうなってそうなったかはわからないが、しばらくここに置いてもらうことになった。
尊奈門に話を聞けば聞くほど、桜がよく読んでいた『落第忍者』というマンガの世界だったものだから、やはり途中から可能性の一つとして考えていた、トリップというものだと決定づけることができた。
ただ、そうなると桜はこの世界には居場所がなかったし、それを考えた上での記憶障害の振りだったので、それが功を奏したらしい。
そして、何とかここがタソガレドキ忍軍の住まいだということだけは教えてもらえたので、それで充分だった。
ここがタソガレドキ城の中なのかとか、そんなことはもういまはどうでもよかった。

「それで、こっちからもまだ質問が残ってるんだけど、いい?」
始めは堅かった尊奈門の口調も、だいぶ和らいで来た頃合いを見計らうようなタイミングだった。
どうぞ、と桜は促してみる。
「あの小刀、何に使うつもりだったの?」
そう聞かれるが、言われていることがよくわからない。
すると、尊奈門は枕元を示して、そこに桜の持っていた荷物があるのだと教えてくれた。
だから、いよいよ布団から起き上がって枕元に寄れば、バッグに入れてあった筈の荷物は全て出されていた。
そこで初めて、自分が着物みたいなものを着ていることに気づき、要するに持ち物検査だけではなく、服の中も全部調べられたのだと知った。
当たり前だとは思うが、非常に落ち着かない。
桜がもじもじしていれば、不審に思ったのか、尊奈門の表情が引き締まった。
「何か、まずいものでも?」
「いいえ。でも持ち物はともかく、服の中も見られたのかと思うとちょっと……」
ここに女性がいるのかは知らないが、尊奈門たちだけだとするなら、脱がせたのは誰かというのが気になる。



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