08



「傷痕は残りそうだけど」
必ず言うのはそれもで、始めこそ気にしてくれているのかと思ったが、雑渡の態度を見ていたら、そうでもないらしい。
なのに、毎回言うなんて意地が悪いか、こちらを嫌な気分にさせたいかのどちらかにしか思えなかった。
「腕の傷くらいは、気にしません」
桜がすっかりお決まりになってしまった言葉を返せば、雑渡はそれ以上のおしゃべりはしなかった。
ふーん、と言って姿を消す。
それだけだった。

元から桜が知っている人は、雑渡と尊奈門の他には二人もいて、その人たちもときどきは世話をしに来てくれたり、包帯を替えたりしてくれていたので、桜はすっかりこのタソガレドキ忍軍に馴染んでしまっていた。
外には出られないが、それなりに中での生活も楽しく思えて来たので、いよいよ覚悟も決まって、怪我が治るころには、桜は雑渡に話をしてみることにした。

組頭の部屋は知っていたが、訪れたことはなかったので、いざ来てみると緊張した。
部屋の前で、どう言葉をかけようか迷っていれば、スッと戸が開いて雑渡が顔を出したので、桜は文字通り、飛び上がるほど驚いた。
「私に用事なら、さっさと入ったらいいよ」
部屋の前でうろうろされては困る、と雑渡は言ったが、実際にはうろついてはいなかったので、誇張だとはわかったものの、突っ込む気にはなれなかった。
座るように言われ、桜が腰を下ろすや否や、で? と、雑渡に促される。
「あの、お世話になったお礼と言っては口幅ったいんですが、こちらで手伝いをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「飯炊き?」
意を決して言った言葉にそう返され、拍子抜けする。
考えてみれば、桜のようなただの女ができることは、それくらいしかないと思われる時代なのかもしれない。
「飯炊きがいないのであれば、もちろん飯炊きもできますが、違います」
「へえ。じゃあ、忍びの仕事ができるの?」
雑渡たちの手伝いといったら、それが一番、直接的な関わり方だったから、やっとそう言われるが、それも正確には違った。
「及ばずながら、知識としてはそれなりに知っていますが、実践はしたことがないので何ともいえません。ですが、小太刀であれば、できるほうだと自負しております」
桜のいた世界では、と注釈が付くので、こればかりは実際に見てもらって判断してもらうよりなさそうだった。
「そう。そこまで言うなら、その腕前、見せてもらうよ」



[*前へ] [次へ#]

8/120ページ


ALICE+