思わせ振りなその笑みで



天気もよかったので、外出届を出したまではよかったのだが、途中で道草ばかり食っていたせいか、目的地である町に行く気が失せてしまい、このままこの辺でぼんやりするのもいいんじゃないかと考えてしまう。
地面に半分ばかり埋まった石に腰掛けながら、桜は空を眺めることばかりしていた。

瞬間、
「うわっ!!」
と、誰かの叫ぶ声が上がり、その直後に強い衝撃と共に背中に重たいものがのしかかって来て、桜はつぶされそうになりながら、顔から地面に投げ出されてしまった。
とっさに首をよじって振り返れば、自分の上に背中合わせで倒れ込んでいたのが三年生の忍たまであるのがわかったので、あとは髪形から判断して、桜は声を張り上げた。

「富松! 重いっ!!」
早く退いてほしくて力を込めれば、富松はびっくりしたらしく、物凄い速さで背中から降り、それから桜のことも起こしてくれた。
「悪ぃ! やけに柔けえもんの上に落ちたんだなとは思ってたんだけど、まさかお前とは思ってもみなかったぜ」
そう富松は必死で弁明してくれるが、それはそれで複雑だ。
「……遠回しに、肉付きがよすぎるって言いたいの……?」
肯定されたら立ち直れなさそうだったから、太ってるなんて言葉は使えず、代わりにそう聞いてみれば、富松はは? と、呆気に取られてしまった。
「……いや、そういう意味じゃなくって……」
ようやく、どうにか否定に近い言葉を口にしたが、先が続かないものだから、桜は冗談でも口にしなければよかったと、少し後悔しながら、すぐに話を変えた。

「ところで、富松はこんなところで何してるのよ? 縄なんか持って……」
何かの自主トレかと続けようとした桜はそこでやっと気づき、自分のいまの質問がいかに愚かだったことを思い知った。
そんなの、聞かなくたってわかりきっている。
「……ごめん、愚問だったわ」
桜が言い直せば、富松は苦笑しながら、いまの時間、三年ろ組は実習で裏々山まで来ていて、学園に帰るところだったのだと教えてくれた。
二人一遍に縄で結んだので、ここへ来て縄が切れてしまったらしい。
そしてその反動で、縄の先を持っていた富松が背中から後ろへ投げ出される形になり、座っている桜の上に落っこちて来ることになったようだった。

三年生で一番の不運は三年は組の三反田だと言うけれど、ここまで来ると、富松もあまり変わらないように思えて来る。
「富松、お疲れ様」
まだ、迷子二人を探すのはこれからなのだが、その苦労を思って桜が口にすれば、富松は目を丸くしていたが、すぐにニッと笑ってみせた。
「おう。でも……思わぬところで新実に会えたし、疲れなんてぶっ飛んだけどな」
不意打ちで、そんなことを言われ、桜が何て返したらいいかわからずに固まっているうちに、
「おれ、あいつら探しに行くから。またな!」
と、そう言って、富松はあっという間に行ってしまった。
取り残された桜は後を追うことも考えられず、富松が口にした言葉の意味を考えると熱くなる頬を、どうすることもできずにいた。



End.






















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作兵衛はこちらまで清々しくなるくらいきっぱりと、どんなことでも口にするといいなと思います。
マイペースなところも、大好きです。


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