特別を共有できるきみと



午後は暇だったので、町に買い物に出ていた。
そんなに買うものもなかったから、一人でやって来ていたのだが、誰かと一緒のほうが楽しかったかもしれないなと、ほんの少しだけ後悔した。
帰りに何か食べようか迷いながら歩いていれば、見慣れた後ろ姿を見つけた。
綺麗な髪の色と、毛先がくるんくるんと丸まっているので、すぐに見分けがつくのだ。

トン、と肩を一つ叩けば、足を止めて振り返ってくれる。
「数馬も買い物?」
手に何か持っているようだったから桜がそう聞けば、三反田は柔らかい笑みを浮かべた。
「桜も?」
すでに桜も買ったものを手にしているからか、三反田もそう聞くのがおかしくて、互いに顔を見合わせて笑ってしまった。

「まだ買いたいもの残ってるの?」
改めたように三反田が聞くところからすると、彼はもう買い物は終了ということだろうか。
「えと……あと、髪紐を見たいかなあと……」
一緒に帰ろうと言ってくれるのかもと思うと言いづらく、桜がおずおずと口にすれば、三反田はまたパッと笑顔になった。
「じゃあ、行こうか」
あっちにあったの見たよ、と三反田は桜の腕を取ると、返事も待たずにもう歩き出していた。

しかし、髪紐っていうのはたくさんあって、見に来る度に迷わずにいられない。
どれがいいかと、うーん、とうなっていれば、三反田が一つを取って、桜の目の前にズイッと突き出した。
「これなんかどう?」
薄紫色をした髪紐は確かに綺麗で申し分ないが、こんなに数と種類がある中で、なぜわざわざこれなのだろうかと桜は三反田を見上げる。
「……似合うと思う?」
何て聞いたらいいかわからなくてそう質問すれば、三反田はもちろんだと答えてくれた。

じゃあそれにする、と桜が三反田の手からその髪紐を取ろうとすれば、それより早く彼が髪紐を持ったまま店内に消え、あっという間に買って戻って来た。
「はい、どうぞ」
と、出されたそれをどうしていいかわからずに桜がジッと見ていれば、三反田はそれがわかったみたいに口を開く。
「ぼくから桜への贈り物」
これくらいはね、と言われてしまうと、本当にいいのかとは聞きづらくて、桜は躊躇しながらもそれを三反田の手から受け取った。

「ありがとう、数馬」
そう礼を言えば、どういたしまして、と答えながら三反田が、初めて困ったような顔を見せたから、何かあっただろうかと、桜は首を傾げてしまう。
「……ほ、本当は、自分の髪と同じ色の髪紐を、桜につけてもらいたかっただけなんだ……」
ごめんね、と言いながらもふにゃっと幸せそうに三反田が笑うから、桜は凄く気恥ずかしくて、返事の代わりに頬を赤く染めただけだった。



End.




















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少し男前な数馬もいいかなと書いてみましたが、男前になりきれなかったです。
数馬の髪紐を考えるのも楽しそうです。


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