陽だまりのように柔らかで



寝不足だったなんてこともないが、少し寝る時間が遅かったのと、あとはいい天気だったから、自習するのもそこそこに榑縁に横になって眠ってしまっていた。
本当はこんなによく晴れて、陽がまぶしいときに外で眠るなんてできるわけがないと思っていたのだが、陽射しを溜め込んで温かくなってしまっている板張りがあまりにも心地よかったし、競り上がってくる睡魔には勝てなかった。


どのくらい眠っていたのか知らないが、ふと寝返りを打ったときに、隣に誰かがいることに気づいた桜はぼんやりと見上げてみる。
寝呆け眼と、陽の光が描く金色の縁取りによって、その人の輪郭すらわからなかったけれど、腰まで垂れている特徴のある髪を見て、桜は一気に目が覚めた。
「尾浜先輩?!」
ガバッと起き上がれば、ようやく見えた顔がこちらを向いた。

「もう起きるの?」
まだ寝てればいいのに、と言う尾浜の顔にはやさしい笑みが浮かんでいて、そんな顔をされると途端に、こんなところで身体を投げ出して寝ていたことが恥ずかしく思えて来た。
「おれが来てからまだ小半時も経ってないし、もう少し寝ていたら?」
さらに尾浜は言うが、もう眠るどころの話ではなかった。

尾浜は榑縁の端に腰かけて本を読んでいたらしく、開いているページに手を乗せたまま、顔だけこちらに向けて、桜の言葉を待ってくれている。
「あ、あの……もう、充分寝たので、大丈夫です……」
やっとのことでそう答えれば、尾浜はそっか、と心持ち残念そうな顔をした。
「ずいぶん、気持ちよさそうに眠ってるなーと思ってたんだけどなあ」
残念、と今度ははっきり口にされ、さらにはクスッと笑われて、桜は顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。

そのとき、校庭のほうから尾浜を呼ぶ声がした。
「勘右衛門ー! 早く来いってばー!」
手を振りながら叫ぶのは竹谷で、まわりには他の五年生も勢揃いして、尾浜を待っているようだった。
それを見ると尾浜は苦笑して、
「あー……もう限界か、あいつら待たせるの……」
と、そうつぶやいたから、桜はびっくりして尾浜を見上げた。

だが、桜が口を開くより早く、尾浜が立ち上がったので、言葉を奪われる。
「じゃあ、おれは行くね。でも今度は、こんなところで寝てちゃ駄目だよ?」
頭を撫でてそれだけ言った尾浜は、ほんの少し名残惜しそうに腕を放すと、待っている五年生のほうへタッと駆け出した。

瞬間、まばゆいほどの陽の光が桜の視界を埋め尽くし、いまがまだ日盛りだったのを思い出す。
そして同時に、尾浜が最後に残した言葉の意味を理解すると共に、彼が日除けになってくれていた事実に気がついた。
しかも、竹谷と尾浜の言葉と、五年生たちの様子からすると、恐らく尾浜は彼らを待たせてまで、桜の隣にいてくれたのだ。
もう寝ないと言ったにもかかわらず、最後に釘を刺して行ったりする尾浜のやさしさも、全て自分を思ってこその言動だと思うと、桜はどうしようもなく胸が騒いだ。



End.




















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どうも私は、こういう話を書かないと気が済まないみたいです。
そして、勘右衛門視点もありますので、よろしければ合わせてどうぞ。


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