陽なたに咲く花のようで01



『陽だまりのように柔らかで』の勘右衛門視点です。





常に彼女を探しているわけじゃない。
だけど、彼女に関しては目ざといほうだと自負している。
きっと誰かと彼女を探す対決でもしたら、絶対に勝つ自信だけはあった。

そのときも、ただ近くを通りかかっただけだったのに、榑縁で寝ているのが桜だと早々に気づいて尾浜は近づいていた。
身体を丸めてはいるが、こんなところに横になって寝ているなんて無防備すぎる。
だけど、その無邪気なところが気に入っていたから、尾浜は桜らしいと笑ってしまった。

こんな陽射しの強い日に、わざわざ日向で寝たりするものだから、寝ていてもまぶしいと感じているのだろう。
桜の眉間に皺が寄っているのを見て、尾浜は太陽から彼女を隠せる位置に腰を下ろしてあげた。
すると、眉間の皺がスッとなくなったので、やっぱりまぶしかったのだと、尾浜はまた笑う。
板張りは温かかったけれど、暑いというほどではなかったので、桜の敵はまぶしさだけのようだった。

どこかで本を読むつもりだったから、尾浜は持って来ていた本を膝の上で開く。
けれどすぐに、桜が何事か小さく声をもらしたから、尾浜はそれに気を取られた。
しかし、もう桜の口が動くことはなくて、ジッと見つめていた尾浜は小さく息を吐きながら、桜の白い頬をぷに、と指で突いてみる。
ん……と、桜は小さくうめいたものの動く気配はなかったから、その熟睡ぶりに、尾浜は密やかに声を立てて笑った。

「おーい! 勘右衛門!!」
遠くからではあるが、竹谷の大声が聞こえたことに、尾浜はわたわたする。
そんな声量では桜が起きてしまうから、どうにかやめさせたいのに、竹谷はおーい、おーい、とさらにくり返す。
とにかく尾浜が手を振り返せば、さらに竹谷が叫んだ。
「組み手するんじゃなかったかー?! みんなもう集まり出してんぞぉ!」
そう言われて、ようやく約束を思い出した尾浜は、のんきに本を読んでいる場合ではなかったのだとやっと気づいた。

ちらりと横を確認すれば、まだ桜は気持ちよさそうに眠っている。
太陽はまだまだ沈まないし、陰ることも当分はなさそうだった。
起こすのは可哀想だし、できるだけ寝かせておいてやりたかった。
「何してんだ、そんなとこでー!」
さらに叫ぶ竹谷に、尾浜はぎりぎり届くくらいの声で言い返す。
「後で絶対行くから、先行ってて!」
しばらくは組み手に自分が加わらなくても大丈夫じゃないかと、尾浜がそう言えば、竹谷は早く来いよー、と言いつつも、何とか引き下がってくれた。
再び訪れた静寂にホッとしながら桜に一度目をやり、彼女が起きていないことを確かめると、尾浜は今度こそ本に視線を落とした。


それから小半時もしないうちに起きてしまった桜は、想像通りに目を丸くして尾浜がいたことにびっくりしていたりして、凄く可愛らしいと思う。


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