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だからそう言ったのに、桜はちっとも出る気がなさそうだった。

そうなると、桜の言動はいよいよおかしく思えて来るもので、鉢屋はどういうことかと首を傾げて思案する。
疲れたから出たくないわけではなさそうで、鉢屋を帰したがるなら、何かを隠そうとしているんじゃないかと考え付いたとき、ようやく一つの可能性を導き出した。
「新実先輩。どこか怪我されてるんじゃないですか?」
聞いてみれば、桜は焦るでもなく、またゆっくりとこちらを見上げた。
その瞳が何か言いたそうだったから、鉢屋は確信する。
「やっぱりそうですか。それならそうだと、早く言ったらどうなんですか?」
ハア、と思わずため息を吐いた鉢屋をジッと見ていたけれど、桜は結局、肯定も否定もしなかった。

手を貸す、と提案してみても、さっきのように誤魔化すかもしれないと思えたから、鉢屋は迷わず穴の中にトン、と飛び降りていた。
桜がなぜ怪我をしたのを隠したがるのかは知らないが、まあせいぜい、迷惑がかかるから、とか、そんな可愛らしい理由だろうと思ったので、埒が明かない問答をしているのが面倒だったため、さっさと行動に移していた。
「新実先輩。少し失礼しますよ」
そう断ったにも拘らず、抱き上げると桜が眉を顰めたものだから、この行為が余程嫌なのだろうとわかった。
とはいえ、背に腹は変えられないし、俵担ぎにしたら、それはそれで嫌がりそうな気がしたので、鉢屋はその表情は見なかったことにして、地面を軽く蹴ると、桜ごと落とし穴から颯爽と飛び出す。
「……もうちょっと我慢してて下さると助かります」
穴から出たせいか、桜が降りようと身体をよじったので、鉢屋はそれを軽く押さえ込み、そう声をかけてから、医務室へと方向を変更した。
こんな時間まで新野先生がいるかはわからなかったけれど、少なくとも医務室へ行けば、鉢屋だってそれなりに手当てをすることはできるので、迷わなかった。

「失礼しまーす……」
外から見ても、明かりが見えなかったので予想はついたが、やはり医務室には誰もおらず、鉢屋は桜をそっと下ろすと、火を入れる。
桜の怪我は予想通り捻挫のようだったから、まず桶の水で濡らした手拭いで患部を綺麗にし、それから薬棚へ、捻挫に効く薬草を取りに行く。
忍者として、必要最低限の薬草の種類は学んでいるから、迷わずに探し出すと、鉢屋はそれをすりつぶし、桜の足の患部に当ててから包帯をしっかり巻きつけた。



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