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だから、もし後者だとするなら、桜の一方通行の想いかもしれないと思えた。

見る限りは、というやつなのだが、かといって確認しようと思うほど、鉢屋には二人のことに執着がない。
確かに桜が竹谷を、だったとするなら意外で、竹谷のどこがよかったのか聞いてみたい気がした。

「三郎。何してんだ、こんなとこで」
声をかけられ、ハッと我に返った鉢屋は、いつの間にか桜がいなくなっていて、竹谷が目の前にいる現状に気がついた。
慌てるのは性に合わなかったので、それを隠すように鉢屋が竹谷の姿を模してやれば、苦笑されてしまった。
「……お前なあ」
すっかり呆れているようで、ため息が大きい。
だが、いつもといえばいつもなので、竹谷は鉢屋の変装にはそれ以上突っ込まなかった。

「ときに八左ヱ門。お前、好きだと思うような子なんているのか?」
竹谷が好きになるような子が想像できなかったから聞いたのだが、鉢屋の質問に、は?! と、頓狂な反応が戻ってくる。
「何だ、三郎。急に!」
焦っているというより、訳が分からないというような反応が竹谷らしくもあり、鉢屋はククッと笑ってしまう。
それをおもしろくなさそうに見ながら、竹谷はその質問をそっくり、鉢屋に返して来た。

「そういう三郎はどうなんだよ? 好きだと思うような相手がいるのか?」
竹谷にしては、してやったりなのかもしれなかったが、そう聞き返された鉢屋のほうは首を傾げて考え込んでしまう。
好きだと思うような相手など、考えたこともなかった。
「……いないな」
思い当たるような人もおらず、そう鉢屋が答えれば、竹谷はやっぱりというような顔をした。
「人のことは言えねぇな」
と、そう言うということは、竹谷も同じなのだとわかった。

すっかり竹谷と話し込んでいて、竹谷の変装を解くのを忘れてしまったが、後ろから声をかけられて、ようやくそれを思い出した。
「八左ヱ門。孫兵が回収終わったって」
真っすぐに竹谷に近づいて話しかけているところを見ると、どちらが本物の竹谷か、桜にはすぐに見当がついたらしい。
やはり、桜のこういうところが竹谷を気にしていると思われる所以ではないかと思えた。

ジッと見てしまっていたからか、桜がそれに気づいて苦笑に近い笑いを浮かべる。
「今日は不破くんじゃなくて、八左ヱ門なんだ?」
それはめずらしいとばかりに桜が言うから、鉢屋は首をすくめてみせた。



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