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めずらしいと言われればめずらしいが、鉢屋は誰にでも変装するから、その言葉は当てはまらないような気もした。
ただ、竹谷の変装が気に入らないのかもと思ったから、鉢屋はすぐに不破の姿に戻ってしまった。



「そういえば、六年生だけじゃなかったらしいよ?」
唐突にそう言うのは不破で、鉢屋は面食らった。
いま現在、二人で課題を片付けている最中で、鉢屋は帳面に文字を連ねることに意識を向けていたので、とっさに頭が切り替わらなかったのだ。
ついでに言えば、不破の言葉が唐突過ぎたのと、言葉の意味が全くわからない。
「雷蔵。何の話だ……?」
筆を置いて振り返れば、不破はだから、と言いながら笑っていた。

「新実先輩の話だよ。仲がいいのは、六年生だけじゃないんだって」
想像もしていなかった桜の話を聞かされ、鉢屋はまたも反応に遅れる。
「仲がいいっていうと語弊があるかもしれないけど、ほら、前に言ってたよね。新実先輩は委員会の手伝いするのが好きだって」
正確には、委員会の手伝いをよくしていると言っていただけで、好きだとは特に言ってはいなかった気がした。
だが、もちろんそんな細かいことはどうでもよかったので、鉢屋は訂正をかけなかった。

それで? と、いうように視線を向ければ、不破がさらに続けてくれる。
「そうそう。それでね、この間、兵助も新実先輩とは懇意にしてるって話を、兵助本人から聞いたんだよ」
たまたま竹谷の話から桜の話に発展したときに、久々知がそう言い出したのだと不破はさらにつけ足してくれた。
「兵助、火薬委員会の委員長代理だからね。わからなくもないよ」
そう言いながら不破は、それにしても新実先輩は本当に委員会が好きなんだね、と呑気なことをつぶやいていたが、鉢屋はまた別に思うところがあったので、それにうなずきを返しただけだった。


同じ五年なので、い組と顔を会わせることはよくあり、昼食時に食堂で久々知と尾浜の二人と重なったため、一緒の机に座った。
鉢屋と同じクラスの竹谷と不破は先に来たはずで、姿がないということは、とっくに食べ終えてしまったのだろう。
「……そういえば、兵助」
食事の途中でふと思い出した鉢屋は、そう切り出してみる。
別に、顔を合わせたら是が非でも聞いてみようと思ったわけじゃなかった。
ただ、不破の名が出たときに、一緒にその話を思い出したからだった。

「六年の新実先輩は、火薬委員会にも顔を出すのか?」



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