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「……興味というより、奇特な人もいるものだと思っただけだ」
そんな理由で気にしているなら、興味があるということにならないかと、自分でも何となくわかっていたけれど、認めたくない気がした。


とうに春も盛りは過ぎて、そろそろ暑くなり始めると思ったらすぐに夏休みに入るだろうから、勉強にも熱が入るというものだった。
学園に残ることもできるが、先生方もほぼ帰省するので、半強制的に帰されることになるため、それまでの追い込みに近いのかもしれない。
鉢屋たち五年生ともなれば、教科書なんてあってないようなものだし、自習や自主トレは常日頃やっているものだし、学園に残ろうが家に帰ろうが、やることはあまり変わらない。
それでも、教えを乞うことは学園でしかできないので、そのせいかもしれなかった。

手合わせなんてものも、学園でしかできないことだからか、夏休み前になると、竹谷辺りが頻繁に申し込んで来る。
普段はそうでもないが、夏だからか、終わった後は汗だくで、井戸で体を拭くことはできるものの、暑さはなかなか引かなかった。
「夏くらい、その雷蔵の変装解いたらどうだ?」
さっぱりするぞ、と顔どころか、勢い余って髪まで濡らしてしまった竹谷がそんなことを言ってくる。
肩衣一枚で、未だに上衣を着ないところを見ると、顔を洗えてもまだかなり暑いらしかった。

「顔の皮一枚くらいで、暑さが変わるとは思えないね」
確かに暑いが、すでに鉢屋は上衣まできちんと着てしまっているし、変装をどうこう言われることでもない。
「まあ暑さは変わらねえけど、蒸れたりすんじゃないかと思ってさあ」
竹谷は竹谷なりに心配してくれているのか、そう言うが、それは愚問というものだった。

心配してくれるのはありがたいことだが、竹谷は失念している。
「慣れてるさ。私が何年、こうしてると思ってるんだ?」
不破の顔を常時借り始めたのは、わりと最近の話だが、変装はその前からしているのだから、当然、夏場の経験もある。
いまさら、顔が蒸れる心配などしていなかった。
「うんまあ、そうなんだけどさ……。おれは暑い」
頭巾まで外して、いまにも水をかぶりそうな竹谷は、自分がこんなにも暑いのだからと、鉢屋のことも気になったらしかった。

「八左ヱ門。そんなに暑いなら、いっそ褌一枚になったらどうだ?」
いつかの黒古毛先生みたいに、思い切ってしまえばいいと言ってやれば、竹谷は眉をしかめた。



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