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それが竹谷だったり、六年生たちだったり、気心が知れた相手ならそうでもないが、総じて鉢屋にはそんな態度だったように思うのだ。
けれど、いまの桜は何だか好意的な口調にも聞こえるし、表情もいつもより柔らかく感じる。
あまり見ない私服姿だからかもしれないが、鉢屋が桜の私服を見るのは、一応これでも二回めだし、どうなのだろうか。
とにかく普段とは違う桜に、鉢屋は動揺を隠せなかった。

「……八左ヱ門は、もう来てるんですか?」
また黙り込んでいると突っ込まれそうだったので、鉢屋はついそんなことを聞いていた。
つるっと出て来たのが、それしかなかったのだ。
さっき考えていたことだったから、それも仕方がないのだが、桜に聞いて本当にわかるかは知らなかった。
「さあ、どうかしらね? 早めに登校したいとは言っていたけど」
何だかんだ言っても答えが返って来るのだから、杞憂だっただろうか。
言っていたと言うが、それが休み前のことか、それとも休み中のことかはわからなくて、ただ休み中でも連絡を取っていたのだろうかと思うと、何とも言えない気持ちだった。

「それを言うなら、不破くんはどうなの?」
竹谷のことを聞いたからなのか、今度は鉢屋絡みのほうで桜から不破の名前が出る。
「雷蔵はもっと後ですよ。私はただ、家にいるのも退屈だったので、ふらっと出て来ただけですから」
五年だからといって、みんながみんな、鉢屋と同じくらいに登校してくるとは思えなかった。
桜はふーん、とうなずいただけで、話を振りはしたがそれ以上は興味もなかったのか、質問を重ねるようなことはしなかった。

学園の校門はすぐそこだったから、いまさら行動をずらしても仕方なかったため、桜と一緒に中に入ったのだが、ちょうどそこに思いもよらなかった人物がいたので、鉢屋はまずい、と思う。
何がまずいかはわからなかったが、とっさにそう思ったのだ。
「三郎……と、桜先輩? また、めずらしい組み合わせだなあ」
ハハ、と笑って言うのは竹谷で、面識がないわけじゃないのを知っている癖に、変なところに突っ込むので鉢屋はむきになる。
「校門前で会っただけだ」
そう言えば、なるほどと竹谷は納得したが早いか、急に話題を変えた。
「それはともかく、三郎にしては早いじゃん」
くるっと話題が変わるのは竹谷らしかったので、鉢屋は嘆息しつつも口を開く。
「私にしては、っていうのが引っ掛かるが……家にいても退屈でな」



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