07



今夜は雲もなく風もなかったから、月が隠れるようなこともなく、ジッと見ていられた。

月の光の中にいることが気持ちよく思え、そうして鉢屋がしばらくそこにいれば、ふと人の気配がした。
振り返った先には、月の光を浴びて立ち尽くす桜がいて、白い肌が艶めかしく見え、ドキッとする。
いつからそこにいたのか知らないが、もしかするとちょうどいまから部屋に戻るところかもしれなかった。
「こんばんは、鉢屋くん」
目が合うと、ちゃんとあいさつをしてくれるところはさすがだろうか。
「こんばんは、新実先輩。こんな時間までいるのは、まずいんじゃないですか?」
あいさつを返しつつも、さすがに先生方に怒られるだろうと鉢屋がそう忠告すれば、桜は目を丸くし、それから流すように笑った。
「……鉢屋くんは、可愛くないこと言うわね?」
見たことのあった笑顔とは違う、唇に薄い笑みを乗せるだけの笑顔は、感情が読み取りづらい。
本当に笑っているのか、それともその向こうに何かを隠しているのか。
どちらとも取れるような、得体の知れない部分がほんの少し垣間見えるところが、気になって仕方なかった。

「可愛くなくて構いませんけど」
桜にとっては後輩だから可愛いと思うのだろうが、男が可愛いと言われてもうれしくない。
だから言ったのに、それを聞くと桜はもう一度、可愛くない、と口にしてから、さっきの鉢屋の言葉に対する答えのようなものをくれる。
「迷子になった三之助を探しに行ってたことは、厚着先生たちも知っていらっしゃるから、こんな時間でも平気なの」
次屋を部屋まで送って、ついでに厚着先生の部屋までその報告に行った帰りだから、この忍たま長屋にいるのだと、さらに桜は説明してくれた。
「新実先輩がわざわざ三之助を探しに行く必要はなかったのでは?」
同じ三年か、体育委員会のメンバーで探しに行けばよくないかと鉢屋が聞けば、桜はクスッと笑ってみせる。
「体育委員会が裏々山までマラソンするのにつき合っていたのよ。その途中に三之助が迷子になったのだから、探しにも行くでしょう?」
天気は悪くなかったけれど、それでも暗くなってしまったら可哀想だから、早々に探しに出たのだと言う。
確かにそれなら、桜がわざわざ探しに行く理由もわからなくなかった。

青白く光る月は変わらず綺麗で、さっき鉢屋がしていたように空を見上げている桜は何だか儚くも見え、その横顔から目が離せなくなった。



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