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朝食の席で三年生に会うことはほとんどなく、たまに入れ違いになることはあるけれど、その日はなぜか、途中で浦風と三反田が食堂に入って来たのが見えたので、手を振っておいた。
隣の机には六年生や先生方が座っていたので、彼らがこちらに来ることはないからだ。
食べ終えた食器は今度は尾浜が片付けてくれたので、桜はそれに礼を言うと、一足先に食堂を出ようとした。
杖だと歩くのが遅くなるので、余裕を持っていたかったのだ。

「桜! おれたちももう終わるから、待って!」
出ようとしたところで浦風に声をかけられたので、桜は足を止めた。
桜は五年生たちと食べ終えてからも話していたので、途中で入って来た浦風と三反田が間に合ってもおかしくなかったが、それにしても、二人が食事をかき込んだらしいのはすぐにわかった。
どう考えても早すぎるし、いま見てても、食べるのがいつもより早いように思えた。

「桜! 怪我、大丈夫なの!?」
食器を戻すなり、くるりと振り返って眉根を寄せるのは三反田で、保健委員の彼には怒られるかと思ったのに、かなり心配させてしまったことが申し訳なくなる。
「……えっと、いまは痛くないよ?」
隠してもバレるのでそれだけ言えば、浦風にハア、とため息を吐かれてしまった。
「痛くなくても、かなりの怪我なんだよね?」
そう聞かれてしまえば、違うとは言えず、桜はうんとうなずくしかなかった。

「頑張ってとは言ったけど、怪我して来いとは言ってないよ?」
痛いところをずばり突かれたら、それについては返す言葉もないのだが、桜は行く前に吐いた弱音を思い出し、つい今回も口にしてしまう。
「だって、タソガレドキ城では何の役にも立てなかったから……」
「だから、怪我していいってことにはならないっての」
言葉を遮るように浦風に正論をぶつけられたら、今度こそ桜にはぐうの音も出なかった。

「まあまあ、それくらいにしといてあげたら?」
おっとりと口を挟むのは三反田で、こうして藤内が怒るのは心配しているからだからね、とフォローまでしてくれる。
「それに、桜に得意分野で頑張るように言ったのはぼくたちだよ?」
浦風に向けてもそう声をかけてから、三反田はまた桜に視線を戻す。
「一年生を庇ったんだよね。帰り道の出来事とはいえ、凄いことだよ」
手放しで三反田は誉めてくれるけれど、それはそれで、桜は恥ずかしかった。
「話だけ大きくなってるけど、そんなことないんだよ。結局、伊助たちを庇いきれなくて、先輩方に手伝っていただいたんだし」
怪我までしてしまったし、そこまで誉められたことには思えなかった。

「……そんなに欲張んなくても、桜は自分にできることだけすればいいんだってば」



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