小品



座り直した桜に不破がお茶を持って来てくれたので、結局、長居をすることになる。
五年生はまだみんな食べているから、それにつき合う形なのかもしれない。
だが、それはいつものことだったし、さっきの件もあったので、桜は自分の気持ちを落ち着かせる目的でも、しばらく同席することにした。

あまり口を挟まずに、竹谷たちが話しているのを聞いていれば、足に何か冷たいものが触ったような気がして、桜はギクッとする。
その正体を確かめたい気もするが、すごく嫌な予感しかしなくて下を向けない。
けれど、いつまでもそうしているわけにもいかなくて、桜はちらりと足に視線を落として真っ青になった。
「たっ、竹谷先輩……これ、取って……っ!」
腕の辺りにぎゅっとしがみつけば、竹谷は一瞬、怯んだような顔をしたが、桜が示している足元に視線を向けると、途端にびっくりしたような顔になった。
「ああ! 孫兵んとこの!」
また逃げたのか、と竹谷は手を伸ばすが、それをかわすようにヘビが足に巻き付いて来たので、桜はビクッとして、慌てて立ち上がってしまった。

「痛っ……!」
思わず足に力が入ってしまったようで、怪我したほうの足に鋭い痛みが走り、桜はへなへなと座り込む。
「桜、少し落ち着け」
あんまり動くと怪我が悪化する、と鉢屋がなだめるように肩を叩くが、冷静でいられるなら大嫌いだなんて公言するわけがなかった。
「無理、です……っ!」
もうすでに、ヘビが巻き付いているのが右足なので無理だと桜が言えば、不破たちが慌てたように立ち上がった。

竹谷が苦戦しているのが、見ていてわかるからだ。
いまはまだ巻き付き方が緩いからいいが、締め上げるように巻き付かれるとやはり怪我が悪化するので、そのためだろうか。
不破たちも手伝ってくれ、どうにか桜の足から外れたヘビは、竹谷がそのまま飼育小屋まで連れて行くと言ってくれ、ようやく収拾がついた。
しかし結局、あのまま足に力を入れ続けてしまっていたので、桜は鉢屋の手によって医務室に連れられることとなった。

新野先生は、大して酷くなってないから大丈夫と、薬草を塗り、包帯を替えてくれただけだったので、桜はホッとする。
治りかけているから、悪化しなかったことは本当によかった。
「……相変わらず、ヘビに遭遇すると、いつもの桜らしくなくなるな」
そうじゃなくても今日は特に変だけど、と続けるのを鉢屋は忘れない。
それは遠巻きに、桜のことを案じてくれているようにも思えたけれど、それについては何も言えなかった。

「……虫獣遁の術もありますし、もう少しヘビに動揺しないように頑張ります」
例えヘビを使うことができなくとも、少し慣れて、大騒ぎしないようにするのも大事だった。
それを聞くと鉢屋は、ほんの少し目を見開き、それから桜の頭を撫でる。
「ああ、頑張れ」
そう言って笑った鉢屋の顔がやさしかったから、本当は何が言いたかったのかわかっていたけれど、桜はうなずいただけだった。



End.




















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72ページの八つ当たりを謝った後辺りに入ります。
昼食に行くのが億劫だった原因ですが、そんなに重要ではありません。

蛇ネタの二回目ですしね。



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