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桜が浦風の後を追うように食堂を出て行ってしまった後で、三年は組の三反田数馬が、彼女の残して行った盆を片付けます、とやって来た。
三反田は口を挟まなかったが、浦風と一緒にいたのを見ていたので、突然やって来たわけではなかった。
「三反田。さっきの浦風の言葉の続き、わかるか?」
思いついて久々知がそう聞けば、不破たちの視線が、今度は三反田に集まるのがわかった。

三反田はほんの少し答えあぐねていたが、久々知たちの視線に耐え切れなくなったのか、居心地悪そうに口を開く。
「潮江先輩が火薬委員会をけなすような発言をされたそうですが、そんなふうに言われてしまう委員会において、桜は一番、無知で未熟……これは本人の自己評価ですけど……とにかく、そんな立場ですよね」
新参者であることには変わりがないとそう言ってから、三反田は言葉を探るようにしつつ、さらに語を継ぐ。
「火薬の知識もいま必死で詰め込んでいる上に、桜は少し火薬が苦手なので、面と向かってけなすような発言をされてしまったら、火薬委員としての心構えがまだまだな桜としては、立つ瀬がなくなってしまう、という意味だと思います」
多分、と三反田は続けるが、桜のことも浦風のこともよくわかっている三反田が言うのだから、あながち間違っていないだろうと思えた。

桜が火薬に慣れていないのも、苦手なのも知っていた久々知としては、気持ちはわからなくもない。
顧問である土井先生に聞きに行ったりして、熱心に勉強をしながら、委員会の仕事を頑張っていたのを見ているので、潮江の言葉を不愉快に思うのは仕方がなかった。
「……でも、そんなことで桜が上級生にあからさまに突っ掛かるの、めずらしいね?」
かちんと来てもやんわり敬遠するか、受け流すのが桜なので、尾浜がそう言うのもわからなくなかった。
桜は礼儀正しいし、あからさまに攻撃するタイプじゃないので、余計にそう思えた。

「もしかして昨日の桜、本当に機嫌悪かったんじゃないの?」
不意にそう言ったのは不破で、そういえば昨日もそれを気にしていたっけと、久々知は納得する。
だが、それをあっさり覆したのは三反田だった。
「気になることはあったみたいですが、機嫌は悪くなかったですよ?」
潮江に対しては八つ当たりする形になったが、あれは桜の中にある焦りから来るものであり、その気になることが原因だったり、機嫌に左右されたものではないと三反田は続けた。

けれど、それなら昨日の朝の桜の態度はどういうことだろうか。
気になったのはみんな同じだったらしく、竹谷が昨日の朝の桜の様子を話せば、三反田はなぜかおかしそうに笑った。



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