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「それは、照れ隠しだと思いますよ」
きっと恥ずかし過ぎてどうしようもなかったのだと、三反田は言うけれど、久々知たちには意味がさっぱりわからなかった。

「どういうことだ?」
久々知が聞き返せば、三反田はちらりと後ろを振り返り、何かを確認してからまたこちらを向く。
「前の日に、三年ろ組の富松作兵衛に言われたそうです。桜は五年生に可愛がられてるからって。まわりにそう見られてるのが、桜は恥ずかしかったんだと思います」
しかもそのせいで、五年である自分たちと朝食の席に付くことに抵抗があったのだと知り、久々知は昨日の朝の桜の行動を思い出す。
竹谷が膳を運んでも、桜は動こうとはせずに立ち尽くしたままだったのだ。
多分、桜の中ではかなり葛藤があったのだと思われた。

「私たちに可愛がられてるのは嫌だって?」
ふと、それまで黙っていた鉢屋がそう突っ込めば、三反田は慌てたように言葉を押し出す。
「そういうわけじゃないと思います。ただ、そう言われることに抵抗があるみたいで……っ」
あわあわと、三反田は必死のようだったが、突っ込んだ当人の鉢屋はけろっとした顔で、そうだよなあ、と納得したような声を上げた。

「桜は頭を撫でられるの、あまり好きじゃないからさ」
いつも嫌そうな顔をされるというが、久々知にはそんな桜の印象がなかったので、目をしばたたかせる。
「おれも撫でたことはあるが、桜はくすぐったそうな顔をしただけで、嫌そうには見えなかったぞ?」
「あ、おれも見たことないな。恥ずかしそうにはしてたけど」
この中では一番多いんじゃないかというくらい、桜の頭をよく撫でている尾浜も、すぐに後に続く。
不破と竹谷は撫でたことがないのか、口を挟まなかったけれど、それを聞いた鉢屋はふいっとそっぽを向いてしまった。

ふてくされたわけではなくポーズだろうし、はいはいわかってるっての、とぶつぶつ言ってるのが聞こえたので、鉢屋もそれは承知しているらしい。
だけど、三反田は困ったように眉尻を下げると考え込み、ややしてから、思い出したように口を開いた。
「……でも、桜の口からは鉢屋先輩の名前を、一番よく聞いてる気がします」
だから富松も、五年生の話を持ち出したんじゃないかと言えば、鉢屋の口元がやわりと緩むのが見えた。
三反田はそれを狙っていたわけではないのだろうが、鉢屋が確実に、元々悪くもなかった機嫌を直したのがわかったので、久々知だけに限らず、尾浜たちも三反田の無意識で的確なフォローに苦笑を隠しきれなかった。



End.

















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75ページで彼女が浦風と出て行った後の、残った五年生と数馬の話です。

数馬だけに限らず、藤内も彼女を思っての言動なのですが、藤内はからかい過ぎですね。



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