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彼女も大概、動じないことが多い子だとは思うけれど、調子に乗るでもなく謙遜するでもなく、さらりと流す辺り、他の女の子とはちょっと違う気がした。
秋休みに家へ帰るところだった桜と、校門のところでばったり会ったのだが、普段と感じが違うことに久々知たちは足を止めた。
いち早く気づいたのは鉢屋で、今日は桜が化粧をしているからだとそう言った。

共に城に忍び込んだことのある久々知は、化粧した桜を見たことがあったが、そのときには確か、もっと厚めに施されていたものだから、まるで初めて見たかのような反応をしてしまった。
それに、夏休みのときは化粧なんてして帰らなかったから、それでびっくりしたのもあるのかもしれなかった。

「桜。すっごい可愛いよ?」
どちらかといえば、可愛いと分類されるような容姿ではないのだが、尾浜がそう真っ先に言うと、竹谷も続く。
「本当にすっげえびっくりした」
いつだったか、美人は大歓迎とか軽いことを言ってた癖に、惚けているようなのが久々知にはおかしかった。
すでに久々知たちは見たことがあったし、そこまでの反応にはならなかった。

「それはどうも、ありがとうございます」
無感情にさらりと流す桜は、ほめられることにあまり興味がないようにも見える。
普通の子だったら、謙遜するとか調子に乗るとか照れるとか、とにかく何某かの反応があってもいい筈なのにだ。
「今日は、この間とは化粧の仕方が違うじゃないか」
どっちに気合いが入っているのかは知らないが、鉢屋はどこか気に入らなさそうに口にした。

「この間は変装の意味もありましたから。帰るだけに、顔を隠す必要はないですしね」
と、桜はあっさり答えたのに、鉢屋はそれでも何となく不服そうな顔をしていた。
「でも、夏休みのときは化粧してなかったよね? 今回は、何か特別?」
色めかしてるから、とさっき言ったばかりの不破もそう聞いたが、桜は首を横に振る。
「特に意味はないです。強いて言うなら、気紛れですね」
化粧したことだけで、そんなにいろいろ言われると思わなかったと、桜はおかしそうにしているが、それだけ容姿についても注目されているということじゃないかと思われた。


それにいち早く気づいたのは、尾浜だっただろうか。
一番先を久々知と共に歩いていたから、そのせいもあるだろう。
尾浜がこちらに視線を寄越したときには、もう久々知も気づいていた。
とっさに鉢屋が桜を引っ張ったのを見れば、後ろの三人も気づいているようだったが、気配に敏感なはずの桜が何も反応しなかったので、久々知は不思議に思ったのを覚えていた。



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