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だが結局、茂みの陰にいたのは桜の知っている人物で、その男を父様と彼女が呼んだことに、久々知を始め、不破たちも驚きを隠せない。
まるで隠れるように陰にいたことに疑問があったからだが、桜のうれしそうな顔を見たら彼女の父親なのはすぐにわかったので、その男と歩き去る桜を誰も止めはしなかった。


「……桜って、お兄ちゃんっ子だと思ってたよ」
ようやく久々知たちも歩き出してすぐ、尾浜がそんなことを言い出す。
夏休み前に兄が恋しくて泣いていたのを竹谷に聞いていたので、そう言うのもわからなくはなくて、久々知たちも揃ってうなずいてしまった。
「あんなうれしそうな桜、初めて見たね」
いつだって年相応には見えないから、ああいう表情はとても新鮮だった。

「……でかい刀持ってたなあ」
ぽつんとつぶやいたのは竹谷で、久々知もそういえば、と思い出す。
腰に差していたのは鞘の装飾もしっかりした、立派な刀だったのを見ていた。
「桜のお父さん、剣豪だっけ? それとも武士?」
どうだっけ、と尾浜が首を傾げたけれど、考えてみれば詳しいことは何も聞いたことがなかった。

父親が剣術を使うから、桜も小太刀を教え込まれているのだと、そんなことしか聞いたことがないのだ。
尾浜の問いに答えられずにいれば、鉢屋ががらりと話を変える。
「あんなにうれしそうだったってことは、父親に会いたいから、絶対に帰りたいって言ったのか?」
質問というよりは純粋な疑問、もしくは自問自答に近かったようで、鉢屋は桜が消えた辺りばかり見ている。
「さあ? 案外、今回はお兄さんが帰って来るんだったかもしれないよ?」
当たり前のように返事を戻すのは不破で、そういうとこはさすがだった。

「兄弟に会うくらいで、あんなに気合い入れるものなのか?」
化粧までして、と余程、桜が色めかしていたのが気に入らないらしい。
「さあ、どうだろうね? 気になるなら休み明け、桜に直接聞いてみたらどう?」
不破があしらうようにそう提案すれば、鉢屋は傍目からもわかるほど、落ち込んだような顔を見せた。

「……桜は、私にはきついんだ……」
休み前に一応聞いてはみたが、やはり教えてもらえなかったらしく、そう鉢屋は言うけれど、久々知たちからしてみれば、桜は鉢屋に一番、心を許している気がした。
しかし、たまに鉢屋に対してだけ対応がきついこともあるのを知っていたし、特に久々知はこの中では鉢屋の次に桜と一緒になることが多いので、余計にいろいろ知ってる分、何とも言えなかった。



End.

















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79〜80ページにかけての話になります。

カットした分の、他愛ない会話でした。



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