幕間



「……で、どうするつもり?」
桜がいなくなった後、誰に言うともなく言えば、言葉の代わりに鉢屋がザッと姿を現す。
結局、桜に居場所を教えてやれなかったけれど、鉢屋はすぐ近くにいたのだ。
簡単な方法で隠れていたのだが、忍術はまだまだな桜は気づくことができなかったようだった。

「後で、私のほうから声をかけることにするよ」
桜がいる間中、姿を隠したままだったということは、いまは桜と顔を会わせたくないからだろうと思い、不破もあえて居場所を言わなかったのだ。
しかし、桜が鉢屋を探していたことは聞こえていただろうから、そう聞いてみたのだが、当人がそう言うなら、不破ももう口を挟まないことにした。

「……雷蔵が、私の振りなんかするから、出にくくなってしまったんじゃないか」
不破が何か言いたげに見えたのか、鉢屋が聞きもしないのに言い訳めいたことを口にするから、笑ってしまいそうになる。
鉢屋も桜が来る前はただ死角にいただけだったし、始めは会う気があったのかもしれない。
不破が鉢屋の振りをしたのを見て、サッと身を隠したのも知っていたので、そう言われてしまっても仕方がなかった。

「三郎がすぐに出て来ようとしないからつい、ね……。でもお陰で、思ったより桜が三郎のことをよく見てるんだってわかったんだから、いいんじゃない?」
思わず、からかうようにそう不破が言えば、鉢屋は視線を外し、ちっともうれしくないとつぶやく。
「一応それなりに、よく話してるからってだけじゃないか。それに桜は、雷蔵たちのこともよく見てるさ」
質問すれば、けっこういろいろな人の特長を挙げられるに決まってる、とおもしろくなさそうに言う鉢屋に、不破は苦笑した。

それは鉢屋も、桜のことをよく見ているということになるからだ。
まあそれは知っていたことだったからいいのだが、どうも鉢屋は桜に対してはずいぶんと弱気のようにも思え、不破はそれが少し気になっていた。
鉢屋らしくないし、そんなふうにしてしまう桜は、やはり侮れない女性ということになるんじゃないかと、懸念していた。

「雷蔵。そろそろ桜がまた教室に顔を出している頃合いだろうし、私も行って来るよ」
本当は、すぐにでも追いかけて行くつもりだったのかもしれないが、それでは格好がつかないと思ったのかもしれない。
ただ一つ、確実に言えることは、不破と話をしていても、鉢屋がちゃんと桜の行動を推測して、タイミングを計っていたということだ。
それはきっと鉢屋にしかできないことなのだろうが、こんなふうに鉢屋の頭をいっぱいにしてしまう桜という存在に、不破はまた少しだけ興味が湧いた。



End.

















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彼女の行動パターンを読んでタイミングを計るのは、彼女のことをよく知っている三郎にしかできない、という意味でした。
そして、雷蔵のは純粋な興味だけです。



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