小品



ちょっとした礼なら、食べるものでもいいかなというのが、いままでの常識だった。
菓子作りは不得意ではないし、だからこそ、そういうのもありかと思っていたのだ。
もちろん、ここは自分のいた時代とは違うし、一般的なプレゼントになるかはわからなかったが、それでもこの時代、菓子は立派なプレゼントとして成り立つんじゃないかと思っていた。

ただ、どんな菓子が主流かはわからなくて、よく耳にする団子やまんじゅうにしてもよかったが、それはよく食べているかもしれなかったので、除外することにした。
南蛮菓子がいいんじゃないかとは思うものの、コンペイトウはこの国ではまだ作られていなかったし、ビスコイトもしんべヱの家まで聞きに行かなくてはならなかったので、それで同じ聞きに行くなら、近くにいる中在家にボーロの作り方を聞きに行ったほうがいいんじゃないかと、そう決めることができた。

六年生の教室を訪ねることに抵抗はなかったが、中在家とはまだあまり話したことがなかったので、頼みを聞いてもらえるものか、心配だった。
とりあえず六年ろ組の教室に行ってみたが、中を見まわしてみても、中在家の姿を見つけることができなかった。

「おう、桜! どうした?」
後ろから明るい声に話しかけられ、もしやと思いつつ振り返ってみれば、案の定、そこには七松が立っていた。
七松なら中在家と同じクラスだったので、桜はあいさつをすると、すぐに頭を切り換えて聞いてみることにした。

「中在家先輩を探しているんですが、いまどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」
教室にはいないみたいだと言えば、七松からはすぐに言葉が戻ってくる。
「長次なら図書室だ」
言い切られた言葉に、桜はやはりそうだったかと納得する。
きっと委員会の仕事も忙しいに違いないと、考えていたところだったのだ。

「ありがとうございます、七松先輩。では、伺ってみますね」
ペコン、と頭を下げてそう言い、廊下を歩き出そうとすれば、ほとんど離れてもいないのに、七松からは大声が戻ってくる。
「おう! 転ぶなよ!!」
振り返れば、七松は満面の笑みでぶんぶん手を振っていて、それはかまわなかったが、言われた言葉の意味は桜にはわからなかった。

編入したばかりで、忍術の腕はまだまだだし、体力も忍たまたちには劣るかもしれないが、桜は鈍臭いほうではない。
よく転んでるというわけでもないし、七松の前で転んだり、転びそうになったこともない。
だから、そう言われる意味がわからなかった。

「……やっぱり、私が図書室まで連れてってやろう」
たったいま別れたはずの七松が目の前に現れ、そんなふうに言ったものだから桜はギョッとしてしまう。
いつ距離を縮めたのか、知らなかった。
返事もしないうちに、あっという間に荷物のように脇に抱えられ、桜は自分で歩くと主張したけれど、七松は聞いてくれなかった。
「桜は危なっかしくて、見てらんないからな」
と、不意に言われたそれが全ての理由だと考えると、七松の気持ちを無下にもできないから、もう何も言えなくなってしまって、結局、桜は図書室まで七松に運ばれることとなったのだった。



End.















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93ページの終わりのほうに入る話です。

小平太は小平太なりに、気を遣ってくれたんだと思います。
転ぶなよ、と言わせたかっただけという話でもありますが。



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