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夕食は各学年で準備することになったので、当番になったろ組の三人と話をしているときだった。
桜は当番じゃないので、ただ単に手伝いをしている最中だったのだが、そこへ久々知が乱入して来たため、びっくりした。
「桜! 豆腐を作ってくれ!」
入って来るなり、そんなことを言うから桜を始めとして、その場にいた神崎たちも目を丸くしてしまう。
勢いに押されてしまったが、桜はすぐに我に返った。

「……久々知先輩。お言葉ですが、お豆腐の作り方はあたし、存じ上げていないのですが」
そもそも、豆腐が作れると公言したつもりはないが、なぜ久々知がそんなことを言い出したのかわからなかった。
「ああ、いや、間違えた。この間の豆腐料理を作ってくれ」
約束だったろう、と言われ、桜はようやく思い出す。
そういえば、またいつか作ってくれと言われていたっけ。
「はい。構いませんけど、いまですか?」
そう聞けば、久々知がそうだとうなずくので桜は神崎たちの手伝いを辞退すると、久々知と一緒に五年生の長屋まで行くことにした。

あのときに作ったのは餡平豆腐だったが、砂糖はあるのだろうかと心配していたが、五年生の使う台所にはちゃんと材料がそろっていて、桜はホッとする。
「……あの、お豆腐ってこれ、多すぎませんか……?」
五年生は久々知と尾浜が当番になっていたようで、台所にいた尾浜にあいさつは済ませたが、机の傍にあった桶をのぞき込んで、桜はギョッとする。
五人で食べる量ではない気がするのだ。
「余ったら、他の料理も作ってくれていい」
と、久々知は言うけれど、むしろ余らせずに作ること自体が無理でしかなかった。

結局、御飯を炊いたり、味噌汁と他のおかずを作っている二人の傍らで、桜は餡平豆腐ともう一つの豆腐料理を作ることにした。
約束をしたのは桜だし、ここで一品増えたところで変わらなかった。
レンコンがあったので蓮豆腐にして、すっかり盛り付けまでしたのだが、あの豆腐の多さからして、どちらもさすがに五人前ずつとはいかなくて、出来上がりは八人前ずつになってしまった。

「こんなに作ってどうすんの?」
そう言うのは尾浜で、作ったのは自分なので謝ろうとしたが、明らかにそれは桜にではなく、久々知に向けて放った言葉のようだった。
「じゃあ、桜もこっちで食べたらいいんじゃないか? 残りは、三年生に差し入れて来るよ」
桜を連れ出した詫びに、と久々知は言うが、差し入れがなくとも、桜が五年生と夕食を取るなら、神崎たちにはちゃんと言っておかなくてはならなかった。
久々知が豆腐料理を持って、三年生の長屋に向かったあと、尾浜が不破たちを呼びに行ったので、桜は一人で食卓の準備を始めた。



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