02



御飯と味噌汁を盛り、準備万端整ったところで、タイミングよく不破たちを連れた尾浜が戻って来る。
遅れること数秒で、久々知もやっと戻って来た。
「今日は、桜が作ったんだって?」
どこからそんな話になったのか、不破が席に着きながらそう聞くから、桜は苦笑する。
「いえ、あたしが作ったのは豆腐料理だけです」
あとは久々知と尾浜の二人だと言ったが、今度は竹谷が感心したように言う。
「豆腐料理だけだって、桜が作ったことに変わりないんだし、いいんじゃねえの?」
立派、立派、という竹谷は軽いが、ほめてくれているということでいいのかはわからなかった。

案の定、鉢屋は無言だったけれど、ちゃんと料理には手を付けてくれたので、桜はうれしくなる。
感想が聞きやすいようにと、久々知の隣に座ったので、どうだろうかと桜が見上げていれば、首を傾げられてしまった。
「この間と味が違う気がするが、おれの記憶違いなのか?」
餡平豆腐はあれから食堂のおばちゃんに教わっていたから、確かに始めに作ったものとは違うはずだった。
「おいしくなかったですか?」
何か失敗しただろうかと気になって聞いてみれば、久々知はぶんぶんと首を横に振った。
「いや、こっちもうまいよ」
味が違ったからびっくりしただけだと言われ、桜はようやくホッと安堵の息を吐いた。

「私は、こっちのほうが好きだな」
不意にそう言ったのは鉢屋で、まさか口を開くとは思っていなかった桜は目を丸くする。
「この前のもうまかったが、少し味が濃かっただろう? でもこれは、よくできていると思う」
はっきりと意見を言い、桜を見て笑ってくれるから、こだわっていたのは鉢屋ではなく、自分のほうだったのだと思い知る。
鉢屋がそうやって笑ってくれるというなら、桜のほうも、いつまでも引きずっているわけにはいかなかった。
「ぼくはこの前の味を知らないけど、これはすごくおいしいと思う。やさしい味がする」
不破までそう言ってくれ、桜はとてもうれしくなった。

結局、久々知にも不満はなかったようだけれど、今回のはどちらかといえば、鉢屋の好みに合わせて作ってしまった形なので、また機会があったらリベンジしたいなと、桜はこっそり思っていた。
おばちゃんに教わりはしたが、自分なりにアレンジしたのがいけなかったのかもしれなくて、でもやはり、久々知好みを探るには、またいろいろ試してみる必要がありそうだった。
今度はいつ作れるかわからないけれど、それでも桜にとって、この時代の味を知るのは興味深いことなので、無駄にはしたくなかった。



End.


















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106ページの、冬休み前の話の前くらいに当たる話です。

三郎は雷蔵と共に、薄味を好みそうです。
兵助ばっかり出てますね。



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