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恵まれた環境で何を言っているのかと怒られそうだったが、やっぱり雑渡に会えないのは寂しいもので、ときどき無性に会いたくて仕方がなくなる。
文のやり取りは前より頻繁にしているが、やはりたまには直接会って話をしたりしたいという願望は、以前より強くなっていた。

会いたくなるのだと言ったことはなくて、ただ桜の中でたまに悶々とするばかりだった。
だけど、そういうことに限って桜は顔に出てしまうのか、ある日、伊作経由でおもしろいものが送られて来た。
「ギニョールでしたっけ? パペット……?」
どっちがどっちの区別かわからなくて、桜は伊作に渡された雑渡の人形を手に、首を傾げてしまった。

タソガレドキ忍軍で、こういう雑渡関連のものを作っているのは確かに知っていたが、こちらに来てからはずっと忘れていた。
ただいつだったか、伏木蔵が持っているのを見て、そんなものもあったと思い出したくらいだった。
これを雑渡の代わりにして、寂しさをまぎらわせるようにということだろうか。
だとするなら、雑渡もずいぶんと茶目っ気のあることをしてくれるものだと、思わずにいられなかった。

「ぼくからってことにしていいからね? 可愛かったからもらったとか、そんなふうに言えばいいよ」
伊作と雑渡の間では話がついているのか、そう言ってくれるから桜はありがたくもらっておくことにした。
しかし、この年でさすがに人形を持ち歩いているわけにもいかず、仕方がなく部屋に飾るだけにしたのだが、なるほどこれは精神的には効果のある方法じゃないかと思った。
見られているという感覚ではないが、それでも雑渡がいつも自分のことを思ってくれているのだとわかったから、そのせいだろうか。
我ながら単純だとは思うが、小さなことすら喜びに変わるほうが、寂しさに負けずにいられそうだった。


「最近、すっげえ機嫌よくないか?」
不意にそう言い出したのは竹谷で、桜は面食らう。
だが、確かに気分はいいので、桜はつい笑ってしまう自分を隠しもせずにうなずいた。
「……締まりのない顔になってるよー」
横から茶茶を入れるように、尾浜がそんなことを言うが、もうどうしようもない。
「何か、すごくいいことがあったんだ?」
さらに不破にも聞かれたので、桜は堪え切れずに笑顔のままでうんとうなずいた。

個人的なことだから、口にするのはためらわれたけれど、考え深げにしていた鉢屋がするりと言葉を挟む。
「大方、見当はつくがな」
目が合えば、ついでにニヤリと笑われてしまい、何だか本当に見透かされているみたいでドキドキする。
「……あ。それなら、おれも見当つくかもしれないぞ」



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