02



地面に投げ出された三反田に駆け寄ろうとした桜は、川西のことも思い出し、反射的に後ろを振り返ってみたが、彼もまだ起き上がれていなかったことに気づき、どっちに駆け寄っていいかわからずにおろおろしてしまう。
そうだ、善法寺先輩……!
少し向こうで薬草を摘んでいた筈だと、先に伊作を呼びに行かなくてはと思った桜は、駆け上がって辺りに視線をめぐらすが、その姿が見当たらない。
どこへ行ってしまったのかと、さらに視線をさ迷わせた桜は、大変なことに気がついた。

地面が途切れている辺りに、土や草が荒れている場所があって、もしやと思ってそっとのぞき込んだ桜は、崖下に伊作が倒れているのを見つけて真っ青になる。
岩肌ではなく土や草ばかりだから、命に関わる怪我はしてないかもしれないとは思うが、身動ぎするだけで起き上がろうともしない伊作を見たら、どこかを酷く痛めたんじゃないかと気が気じゃなかった。

と、とにかく誰かを呼んで来なくちゃ……!
手当てができるできないはともかく、人手がないと彼らを運べそうもないし、その前に伊作を引き上げることすら桜には難しかったから、とにかく人を呼ぼうと思ったのだ。
一番早そうな斜面を学園へと駆け下りていた桜は、ちょうど下りた辺りに五年生の制服を着た人たちがいるのを見て、一瞬、気がゆるんだ。
その瞬間、足元にあった草か何かに引っ掛かり、桜は文字通り転がり込むようにして、五年生の人たちの中に突っ込んでしまっていた。

「……大丈夫?」
やさしい声と共に顔をのぞき込んで来たのは不破で、そこでようやく桜は、自分が不破の腕の中にいることに気がついた。
飛び込んだ桜を、受け止めてくれたらしい。
「そんなに慌ててどうした?」
また別の声がして、不破の隣から久々知ものぞき込んで来て、それに続くようにして、
「恐いものでも見たの?」
と、桜の頭を撫でながら、尾浜も視界に入って来た。
その光景にさらに気がゆるんだ桜は、泣きそうになりながらもグッと堪え、いまの窮地を説明した。

案内して、と不破に言われた桜は、今度は逆に斜面を上り出す。
傾斜はきつくはなかったけれど、いま全力で駆け下りてきたばかりだし、桜は動揺も激しかったので、不破たちが途中で大丈夫かと声をかけてくれるほどには危なっかしく見えたらしく、だけどどうにか頑張って足を動かした。
さっきの場所に戻って来ると、三反田と川西はもう体を起こしていて、互いに傷の手当てをしているようだったから、桜はさらに上がって伊作が落ちた辺りに不破たちを案内する。
伊作はまだ崖下にいて、声をかけると弱々しく手を挙げて応えてくれた。

「おれが下に降りて善法寺先輩の体に縄を結ぶから、二人で引き上げてくれ」
真っ先にそう言ったのは久々知で、太い木に鉤縄を括り付けると、その縄を伝ってするすると下りて行く。



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