03



あっという間に伊作の傍に着いた久々知は、素早い動きで伊作の体に縄を結び、こちらに合図して来る。
伊作は足には怪我をしていなかったのか、不破と尾浜が引き上げるのに合わせ、斜面をまるで歩くようにして足を付きながら、どうにか上まで上がって来て、開口一番にありがとう、と礼をくれた。

「ごめんね、心配かけて」
不破の手当てを受けながら、伊作はそう言って笑顔を見せるから、桜はまた泣きそうになって、ぶんぶんと首を横に振った。
「……じゃあ、早々に帰りましょうか」
鉤縄を伝って、軽やかに戻って来ていた久々知がそう言って伊作に肩を貸したのを見ると、不破は先に歩き出し、少し下にいる三反田たちに声をかける。
「きみたちも、早く戻って手当てし直さないとね」
飽くまでも応急処置なので、医務室に行ったらちゃんと診てもらわなくちゃならないと言いながら、不破は足をひねっていた三反田に手を貸す。
久々知や不破より先に、三反田と川西のところに様子を見に来ていた尾浜は、背中の痛みで蹲る川西を背負うと、薬草のカゴまで持とうとしたので、桜は慌ててそれを引き受けた。

「桜。ほら、こっち」
川西を片腕で支えていた尾浜が、空いている手をひらひらとさせたので、桜は一瞬何のことかわからなかったけれど、すぐに気づいて恐る恐るその手を握った。
「頬、切れてるよ。手もすり傷だらけだし、桜も一緒に医務室で手当てだね」
そう尾浜に言われて初めて、あちこち擦ったと気づいたけれど、不思議とどこも痛くなかった。
顔を上げると尾浜と目が合って、やさしく微笑むその顔を見た桜は、ようやく心から安心できた気がして、つないだ手にぎゅっと力を込めた。

結局、伊作たちの怪我はどれも大したものではなかった。
痛みが引けば、あとは程度の酷いものはないということだった。
「桜も、よかったね。それ、跡が残らないって言ってたし」
顔に貼られたガーゼを差しながら尾浜が言い、その後を引き受けるように不破も口を開く。
「女の子だからね、顔に傷が残っちゃったら可哀想だからね」
そうため息を吐くが、跡が残ることを懸念していなかった桜は目を丸くするばかりだ。
「……でも、あれだな。今回、何が一番驚いたって、桜の慌てぶりだよな」
久々知が思い出し笑いをすれば、不破も尾浜も同じように笑うから恥ずかしくなる。
「そうだよね。あんなに焦ってた桜、初めて見た」
しみじみと不破が言えば、尾浜もうんうんうなずく。
「そういう桜も、可愛いけどね」
言ったのは尾浜だったが、三人が三人ともいい笑顔だったから、桜はさらに恥ずかしくなり、数刻前のような取り乱し方で、いますぐこの場から走り去りたくなってしまった。



End.


















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一番始めに数馬が登場したので保健委員を絡ませたら、こんな結果に。
五年生の三人がいたのは、授業帰りです。

33ページ、夏休み前くらいの話です。



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