01
木の実をどうしようか迷い、そういえば懐に手拭いがあったと思い出した。
何かあったときのために、二、三枚は持つようにしてあったのだが、どうも普段から手拭いを使う習慣がないので、ついうっかりしてしまう。
自分のいた世界だと、ハンカチならいつもポケットに入れていたが、そもそもこの時代にはハンカチがまだないので、それすらも当たり前のことではなくなっているから、こういうときの対応が遅いのかもしれなかった。
ここでは手拭いにいろいろ包んだりもするというから、ティッシュやハンカチの代用として、桜もそこに木の実を包むと、また懐にしまっておいた。
「……あ」
そのとき、何事かに気づいたように三反田が声を上げたから、桜は顔を上げると彼に視線をやった。
「桜さん。手の甲のところ、怪我してますよ」
自分の手を使い、細かい部位を教えてくれている三反田を見てから、自分の手を確認すれば、確かに左手のほうにすり傷ができていた。
手の甲といっても小指の下くらいなので、側面ともいえなくもないが、甲のほうまでこすれた跡があるから、間違いではない。
そうはいってもすり傷だし、ほんの少し血がにじんでいるようだが、大したことはなかった。
「これくらい、舐めとけば治るわ」
実際に舐めるということはなく、手を洗って清潔にするくらいではあったが、こういうときの常套句を桜が口にすれば、三反田の顔が険しくなった。
「そんな適当じゃ駄目です! ちゃんと消毒しないで、ひどくなったらどうするんですか」
と、声を大にして言われたら、桜は驚かずにいられなかった。
「……でも、かすり傷だよ?」
血がにじむとはいえ、よく見ないと本当に血が出ているのかと疑いたくなるくらいの、微かなものなのだ。
むしろ、放っておいても勝手に治るだろうと思われた。
「かすり傷でも、甘く見たら駄目です。木に登ったときに怪我をしたんですし、ちゃんと消毒しないと、化膿してからじゃ遅いでしょう?」
三反田の言うこともわかるが、患部を綺麗にしておけば、本当にこれくらいなら化膿やひどくなることを懸念する必要はなかった。
意識の違いというやつだろうか。
いつまで経っても平行線にしかならない気がして、桜は小さく息を吐く。
この時代は薬草を取りに行ったりして大変だから、余計にこんなかすり傷くらいで医務室の世話になるのはどうかと思ったが、それがいけないのだろうか。
「……とにかく、医務室に行きましょう!」
埒が明かないと思ったのは三反田も同じだったようで、怪我をしていないほうの桜の腕をつかむと、問答無用でスタスタと歩き出していた。
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