Cutie Pie
*固定夢主っぽい表現多々あり











「その髪型、好きなんですよね。」



ふいに投げかけられた低い声に、フライパンを置いて振り返った。
視線をやや上げれば、ソファに座って待っていたはずの骸がわたしのすぐ後ろに立って、まじまじと髪を見ている。
触りたいのを我慢しているかのように青白い手を出したり、引っ込めたりしているものだから、熱っぽい視線も相まって少々きもちわるい。



「その髪型って、ツインテール?」
「ええ、好きなんです。」
「うん……何となく察してた……」



フライパンから中身を皿に移す。
ふわふわカリカリのフレンチトーストが白い皿の上に綺麗に着地した。
それを見て背後の骸は待ちきれないとばかりにソワソワし始めたが、一向に準備を手伝おうとはしない。
早く食べたいならフォークとナイフを出すなり、飲み物を淹れるなりしなさい。




「骸、フォークとナイフくらい出して」
「じゃあその髪、触っていいですか」
「じゃあって何……まあ、別に減るもんじゃないからいいけど」




言うやいなや、骸はこれまでに見たこともないほど機敏な動きを見せた。
勝手をよく知らないはずの我が家の食器棚から銀色のナイフとフォークを2本ずつぬきとり、ソファの前のガラステーブルに置いて、まっすぐこちらへ帰ってくる。
普段ならば「面倒ですねえ」だとか文句を垂れ、「食器のしまってある場所が分かりません」と探そうともせずにぐちぐち言って、ノロノロとソファのあるリビングまで牛歩戦術よろしく歩いて、わたしの手伝いをするどころか邪魔にしかならないのだが。





「……きもーい」



にやにやとわたしの髪を弄り始めた骸に心底ため息が出る。
男にしては細い骨ばった指が髪の束をするすると滑った。
つるりと指が髪を通り抜けてゆく感覚が心地良いと同時に、堪えきれないように口角を上げる口元がきもちわるい。
こいつ、絶対ロリコンだよな……、
脳裏をよぎるのは、奴が過剰に可愛がっている幼げで愛らしいクロームの姿。
ツインテール好きといい、クロームを身近に置いている時点でお察しである。
幼女趣味も大概にしろと言ってやりたいが、そもそもこのロリコン性癖が無ければこの男はきっとわたしなど相手にしていないだろうから、何とも言えないところがある。


わたしは、ツインテールだって年齢相応に見えない身体だって嫌だ。
おまけに、実は訳の解らないホムンクルスの血を引いていて踝から羽根が生えるなんて。
リボーンは私を「人工的な天使の末裔のようなもの」だと言ったけれど、心底やめていただきたい。
もうちょっと綺麗で可愛くてボン キュッ ボン!の子ならまだしも、私みたいなガキではせいぜい「フランダースの犬」に出てくるすっぱだかの赤ちゃん天使と大差ない。


その点、クロームはまだマシだよなあ。
棚から茶器を出しながら、彼女の姿を脳内で構築する。
確かに彼女も顔は幼かったり身長が低かったりするけれど。
どうあれ身体はしっかり成熟しているし、胸も大きいのだから。


ちんまり、と申し訳程度にしか膨らんでいない自身の胸元に目を遣る。
……虚しくて涙すら出ない。
やはり、わたしがコンプレックスとするものを全て好きだと言うこの男は頭がおかしいのだ。
原因を全て外見に帰すわけではないけれど、この貧相な身体と顔のせいで今まで一度だって異性から好意を向けられたことなどなかったのだから。




「幸せそうに触ってるとこ悪いけど、お皿にホイップクリーム絞って。」
「はいはい」
「飲み物どうする?わたしは紅茶にするけど」
「ならば僕も同じものを」





いそいそと冷やしておいたクリームを取りに、わたしの髪を掴んだまま冷蔵庫を開ける。
やめろ、地味に痛いしポットからお湯が溢れてしまう。
手綱かよ!と突っ込んでやったが、骸の都合のいい耳には入らなかったようだった。
諦めてわたしもポットで開き始めた茶葉に意識を移す。
赤っぽい琥珀色に色づいて行く水面に、骸の満足げな赤い瞳が映った。
いついかなる時にも映える骸の見た目はやはり気にくわない。
ただのロリコンのくせに。




「知っていますか、」
「しらない」
「まだ何も言ってませんよ……ツインテールは和製英語なんですよ。」
「ふーん」




そんなもん知るか。
いい感じに蒸れた紅茶をカップに注ぐ。白い陶器から白いカップへ、赤い滝のように流れててゆく様は美しい。
息を吐きたくなるほどに。
カップに7割ほど注ぎ、続けて赤い滝を流そうともう一つのカップを手元へ取り寄せようとしたところで、骸の手がふいにわたしの指を掴んだ。



「こっちを見なさい」
「……」



なぜお前のツインテール薀蓄を聞かねばならんのだ。
一言物申してやりたいが、言い返せば右手でわたしの指を、左手でわたしの髪をむんずと掴む大馬鹿野郎に何をされるか分かったものではない。
髪を引きちぎらん勢いで引っ張られたり、指を通常曲がるべきではない方向へ無理やり曲げられるかもしれない。
緩やかに受け身を封じられたわたしはしぶしぶ、ポットから手を離し、骸の薀蓄に耳を傾けた。



「ツインテールは、英語ではangel wingと呼ぶんです。」
「天使の羽根?」
「そう、天使の羽根。」



するり、ツインテールにあったはずの骸の左手が首筋を通り、肩を過ぎ、胴を超えて脚を撫でる。
さわさわ、といやらしい触り方ではないにしろホットパンツから伸びた太ももにいきなり刺激を受けて、気持ち悪さに耐えかねたように踝から羽根が飛び出した。
それと同時に、まだ育ちきっていない白く細かい和毛があたりを舞う。
それに、また骸は感嘆の息を漏らした。




「君にこそ相応しい髪型でしょう。」




不健康そうな手がわたしの両肩にするりと忍び込んだ。
可愛い僕の天使、だなんてどこかでよく聞くセリフの使い回しのような言葉と共に、薄い唇が近づく。
ツインテールの結び目に降りるかと思われたそれは、一瞬躊躇った後にわたしの唇へと静かに触れていた。







(Cutie Pie/六道骸)

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