03
何度も後ろ髪を引かれる思いでセツを支えながら走る私に、セツは笑いかける。



「心配すんなよ。お前の神使だろ?弥都波はお前を置いて死んだりしねぇよ」
『うん…』
「だから泣くな…俺もあいつもお前の笑った顔が好きだからさ」
『うん…ごめんね』



頬へ伝いそうになる涙。眉を寄せて必死に我慢しているその顔で笑みをともした。
その顔を見てセツが満足そうに「 よし 」と言って再び前を見据えた。背後から大きな爆発音が聞こえる。激しい闘争に心配する心は不安に駆られる。どうか弥都波が無事でありますように…私は神に祈った。馬鹿の一つ覚えのように…縋った。



『水鏡まで行けば…大丈夫?』
「ああ…大丈夫、じゃないが。あの野郎をぶちのめすまでは頑張る」



セツの強がりは徐々に減っていく。気丈に振舞っていてもきっと神力の著しい低下によって体内のバランスが崩れているのだ。辛いに決まっている。早く安静に出来るところを探して、彼に供給をしなければ……。土を踏む一歩が重く感じながら木々を避けて歩き続けるがその小さな願いですら断ち切るような殺気が背中に差し迫った。二人で避けるように左右に分かれれば私が居た場所に刃が突き刺さった。確実に私を狙って来ている事が要にわかる光景。地面に座りこむ私に男は視線を真っ直ぐ投げてくる。彼のその瞳の奥には慈悲も存在していなかった。ただ、只管に力を求める武者のように構える刀。
喉を上下に鳴らし、私は念じるように口元を僅かに奮わせたそのとき。男の背後からセツの刀身が閃光のように振り下ろされる。咄嗟の事なのに戦闘慣れしているのか男は簡単に避けてしまうが前髪を少し掠った。



「お前の相手はオレだろ?オレを怒らせるなって言ったろうがっ!!」



セツが必死に叫ぶ。追撃で刀を炎で形成した刃が彼の持っていた刀を両断した。



「ふーん。そういう遣い方も出来るわけだ…なるほどね。んじゃ、俺も――」



そう言って、セツから奪った力で同じように刀を炎で形成した。その両者がぶつかり合う。このままでは、セツに勝ち目などない。一目瞭然だった。この衝突の最中、私の頭は妙に冷静でいた。傷つく私の大切な家族。失った物、大きな代償…これまで自身が生きていた記憶がまるで走馬灯のように駆け抜けては消えていく。私に護られる価値などあるのだろうか?私が今出来ることは……。



「お前と闘っていたいけ好かない野郎はどうした」
「どうしたって聴きたいの?」



赤い舌が覗かれるその瞬間。旨まで言わずとも理解出来た。
弥都波…私が産まれる前から私に付き従う事を契約された神使で、今まで文句も何も言わなかった。彼はとても綺麗な顔立ちをしていて参拝客が思わず足を止めて振り返ってしまう程に。社交的で紳士的で誰もが羨む彼を私は家族のように思っていた。離れ離れに暮らさなければならない私の本当の家族よりも傍に居てくれた。淋しさを埋めてくれるように私に優しくしてくれたそんな弥都波が、私のために…。
その時の私はきっと、感情が壊れた人形のようだったのかもしれない。

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