「はあ、はあ」
必死に足だけを動かして辿り着いた先は、彼女が目指していた水鏡。所謂、小さな湖のことだ。
神様なんてオレは信じない。自分がそれの所為でどれだけの傷を負って来たか数えきれない。それはもちろん、汐慧もそうだ。
だからオレは汐慧を護らなければ…優しくて、誰よりも人の痛みに過敏に反応する小さな女の子をオレは護らなければ…!二度と失いたくない…もう誰もオレの目の前から消えないでくれ…!
そのためならオレはどうなってもいい。
「だから……頼む。汐慧を…死なせないでくれ!」
叫びながら、湖の中へ彼女と共に入って行った。
『 ここは、水神様の祠がある湖なの。祖父様が言ってらしたの。この湖に入ると世界の入り口に辿り着くと言われている。だからこの湖にもしうっかりでも溺れてしまったら、過去に繋がる世界の入口になるかもしれない。未来に繋がるかもしれない。この湖は祠でも有るけど、合わせ鏡。別の言い方をすると水鏡になっていて、水があればどこでも繋がれるの。うん、迷信かもしれないし、違うかもしれない。ただ、信じてみたら楽しいかも 』
幼い彼女の声が聴こえる。冷たい水の中を堕ちていく。底などないのではないかと思うくらい……。その時、ふと、声が聴こえた―――。
≪ 生きたいか――? ≫
そう問い掛けて来る男の声に、俺は漂いながらもしかと抱きしめる身体を確認していた。そして、オレは――。
「生きたい」
そう、答えた。譬え重すぎる代償を支払ったとしても、それでもオレは――生きたかった。汐慧と共に……。
「 ん?なんだこいつら? 」
「 どうしたんですか? 」
《 ヒト?ヒトだけどヒトじゃない 》
「 村雨が人じゃないって 」
「 えっ。…まったく二人とも厄介なモノを見つけるのが上手いですね 」
「 俺じゃねえよ、村雨 」
《 ……村雨といっしょ 》
「 おい、村雨?って、人に懐いてる……!?俺以外に! 」
「 珍しいですね……、信乃。女性の身体をそんなに見つめるものじゃないですよ 」
「 誰もみつめてねぇよ!! 」
「 それでは、俺は女性を運びますから信乃と村雨はそちらの方をお願いしますね 」
「 普通逆じゃねえか? 」
「 置いて行きますよ 」
「 待てって!荘介 」
零章 人間は愛し神子を殺した 完