07
目前に並ぶ狐の面をした奇妙な気配を漂わせる五人組。その雰囲気は只ならぬものを感じ取れる。人間とは違う獣の気配。だが妖怪といった類のものとは明らかに違う神聖な雰囲気にこの場にいるものの緊張感を走らせた。
雪慈は信乃が持つ【村雨】を狙ってこの狐たちがやってきたことを理解しているにも関わらず。思わずその空気間の所為で2階へ視線を走らせた。未だに眠ったままの汐慧。この狐たちの主の興味が彼女へ矛先が向けられるかもしれない。そんな有りえない想像が焦燥になる。この似ている雰囲気。神の持つ神域にも似たこの気配の所為で……。



「 犬塚信乃。犬川荘介。主の命によって迎えに来た。今すぐ出立の用意を 」
「 ……成程。二つで一つの命か。一人は犬畜生とはな 」
「何だと!?このキツネ野郎!!」
「信乃!!」



荘介を馬鹿にされた事に腹を立てた信乃が今にも跳びかかろうとした腕を押さえる。冷静に引きとめていた。



「 おお。こちらの子供は我らと同じ 」
「 お主は何と命を共にした? 」
「 臭う。臭うぞ 」
「 お主それと共に時を止めたな。何故なら我らも時とは無縁 」
「 その姿のままでお主はそれと共に生き続ける 」
「 主が知りたがっている。それは【何】かと――― 」
「 何故、お主達はそのようにして生きるかと――― 」
「 …娘はどうした?そこの娘ではない 」
「 人でありながら我らと同種になった娘を 」
「 その娘と共に迎えに来た。さぁ 」

「娘って…汐慧のことか?」
「そうだ」



信乃の小声に雪慈が屈んで頷いた。それを踏まえて信乃は彼らの追い返しを計る。元より素直に教会と言う胡散臭い宗教団体に力を貸すことなど彼の視野には含まれてはいなかった。



「ゴチャゴチャとうるせえなあ。コレが何か知りたいって?いいぜ、教えてやるよ……なあ?【村雨】」



言い終えると同時に、信乃の腕から奇妙な模様が浮かびあがり、手の甲には眼玉が動き出す。腕に刻まれた印から生き物のような羽のように、骨浮き彫り肉を突き破る。皮を剥いで顔を覗かせる。鴉の姿をした村雨が信乃の腕から飛び立つ。村雨に恐れると同時に狐たちは僅かな視線に気がつきふと建物の2階を見上げればそこに、眠っているはずの娘がこちらを見下ろしていた。
色のないその色相の瞳に狐たちは恐れを抱いた。
村雨は知らずに狐たちへ襲いかかり、無残に面だけが地面に取り残されていた。



「壊れたみたいですね、結界」



教会全体を覆っていた薄い結界は村雨の活躍により綺麗に消えてしまった。それに項垂れるのは司祭のみ。



「さて、朝食の途中でしたし」
「アラいけない!お茶っ葉出しっぱなしだったわ!」



慌てて中へ戻る一行。但し信乃だけは2階の窓を見上げた。そこにはカーテンしっかりと閉まっており中の様子は伺えないはずのその窓を彼は凝視していた。



「信乃どうしたんだ?」
「雪慈。多分…汐慧、目が覚めたと思う」
「おいっ、信乃?!」



聞き返す雪慈を置いて信乃は駆け出し階段を昇っていく。目的の部屋のドアをノックもせずに開け放てばそこには、見つけたときから閉じられていた瞳の奥。藤色の息を呑む程整った顔立ちで少年へ長いまつげが視線を走らせる。捉えられたその瞳に信乃は唾を呑みこんだ。



『おはよう、ございます』



遠慮がちにそう呟かれた。



「今のは……見間違いじゃなければ尾崎家の五狐だと思うのですが…」
「そうじゃな」
「そうじゃな…って…」
「……全く豪い者に目をつけられたものじゃよ」


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