08
長い夢を見ていたかのように、目が覚めたら見知らぬ天井の板目を眺めていた。
ここはどこだろう?まさか自分は生き延びたのだろうか?
それすらもわからぬまま呆然と白いシーツの中に沈みながら私は夢の続きを思い出していた。
今年も終わる12月の暮れ。参拝客の願いを聞き届けながら私はいつものように台帳に記載していく。
着慣れた巫女服の裾をすりながら机の上に置かれる弥都波のお茶。嗜むように一口口を付ければ合図のように雪慈が帰ってくる。その大きな足音に今日はどんな話を聞かせてくれるのだろうかと。今か今かと待つ私。
祖母様の家庭料理に箸を伸ばし、祖父様と修行に励み…それが私のサイクル。
それが突如と現れた男の手に寄って、全てを破壊された悪夢のような現実。これが全て夢だったらよかったのにと弱気な事まで思い出しながら私の眠るベットに上半身だけ身を預ける犬塚信乃という可愛らしい少年が私を見つめる。
「体調大丈夫か?」
『ええ。ここまで運んでくださりその上助けて頂きましてありがとうございます』
「そんなこと人として当然のことよ。まさか教会の人間が率先してか弱い女の子を見殺しになんて出来ないものね信乃」
「棘がある言い方するな…別に見捨てるつもりなんてなかったからな」
『はい。ありがとうございます』
「敬語とっていいって!大体アンタの方が年上だろ?」
『えっと信乃、さん?』
「信乃」
『あ…し、信乃っ』
「おう」
屈託なく笑う信乃に私はどこか不思議な気持ちになる。人懐っこいのか私の傍に寄りながら頭を差しだすので撫でてあげると緩む信乃の顔。
「信乃が珍しいわね」
「ところで…暑苦しくねぇーの?そいつ」
「うぅぅ…汐慧ぇぇぇえええええええええああああああよかったあああああ」
『…気にしないで?いつもの事だから』
「「 これいつもなの 」」
雪慈が泣き声を喚きながら私に抱きついている事に溜息をつきながらも、心配をさせたのは事実だ。
私は何も云わずに雪慈になされるがままにしておいた。
するとドア越しに遠慮がちにノック音が響く。
「信乃、浜路」
「荘介。なんだよ入ってくればいいだろ?」
「そういう訳にもいきませんよ」
「大丈夫よ。汐慧は違いがわかるわ、雪慈より」
「何か浜路酷くない?」
「酷くないから」
首を傾げながら待っていると、彼は観念したかのようにそっと扉を開けた。
姿を露わした彼が渋っていた理由を理解したのは、彼の顔にあった。
とても優しそうな雰囲気のどこか冷たそうな一面を兼ね揃えた犬川荘介と呼ばれる男は、私達を襲った男と瓜二つだったのだ。
彼が申し訳なさそうに私の傍へ一歩近寄るがそれでもドアからとても近い位置に立つ。
それを信乃が言いたげな視線を投げるが。
「いくら何でも俺と似ているのなら気分が悪いでしょう」
譲れないかのように頑なに彼は動かなかった。
「汐慧。荘介は似ているがあいつとは別人だ」
『…わかってるよ、それくらい』
「へ?」
真剣な顔で言ったセツの表情は明らかに私の発言で間抜けた顔に変貌する。
『犬川荘介さん。助けて頂きましてありがとうございます』
頭を下げてお礼を言うと荘介さんは少しだけ驚いた顔をした後に、口元と目元を少し和らげた。
「いいえ。こちらこそ」
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