09
荘介さんと二人きりにしてもらった室内は小さな湯気が二つたちこめた。
「えっと、紅茶でよろしかったですか?」
『はい。紅茶好きなので』
「……」
困惑する荘介さんにくすりと不謹慎だけと笑ってしまった。
『ごめんなさいっ。でも…そんなに緊張しないで。ただ、蟠りを消したくて』
「…笑うと可愛らしいんですね」
優しく微笑まれてしまって咳払いをひとつした。
『まずは、セツが勘違いして殴ってしまってごめんなさい』
「ああ、いえ。でもあれはもう三日も前の事ですし」
そっと荘介さんの頬に指先を触れさせた。やっぱりまだ力が定まってないみたい。
『少し火傷をしました?』
「あ、いえ。多分腫れだと思います」
『そう…本当にごめんなさい』
指先に意識を集中させて腫れと火傷の痛みを消すように働きかける。外傷が消えればそっと離した。
荘介さんの顔色を覗くと何だか少し頬が赤くなっていた。
『まだ熱が引きませんか?』
「い、いえ!大丈夫です…」
荘介さんはどこか慌てた様子で少し離れてセツに殴られた左の頬に触れる。彼の様子からみて他に異常はなさそう…魂以外は。
あまり込み言ったことになりそうなので、それ以上の質問はしなかった。彼と似ていない、けど彼と似ているとしたら、外見と魂だけ。
もしかすると…彼は……。僅かに瞳を伏せて考え込むと荘介さんに声をかけられる。
「あの。聞いたところによると汐慧さんの方が俺より年上だと。なので気軽にで構いませんよ」
『そうなの?!私てっきり荘介さんの方が大人だと思って…あ、いえいえ!決して老け顔なんて言ってませんよ!』
「言ってますから」
『わっ、ごめんなさい…。じゃあ私にも信乃と会話するみたいで構わないから。あまり敬語って好きじゃなくて…』
誰かを敬う言葉。決して悪い言葉ではないけれど、一線を引かれているみたいで。自分の境遇に辟易する。
そんな事を考えていたらそっとその場でしゃがみ込み、視線を合わせるとこちらを真っ直ぐと見つめる瞳はとても温かった。
「…わかりました。でも俺はこういう口調なのであまり気にしないでください。距離を開けている訳ではないので」
『…うん』
だから、嬉しくて笑ってしまったんだ。宝物を見つけてはしゃぐ子供のように…。
「お菓子持って来たんだけど…お邪魔かしら?」
「浜路!」
『浜路さん』
「もう汐慧。私の事も浜路でいいわよ。それより洋服持って来たの!明日は一緒にお散歩しましょう」
浜路さんはサイドテーブルにお盆に乗せたお茶菓子を適当に置くとベットに腰掛けて洋服を沢山広げてくれた。どれもこれも見た事のない服ばかりで、私は目移りしてしまう。
『わぁー浜路ってお洒落さんなんだね!私、巫女服以外で着るお洋服って初めてみた』
「え、そうなの?…じゃあこれからは私が選んで着せてあげるわ」
『ありがとう』
「汐慧は肌が白くて綺麗だから…コレも似合うわ!」
「あ、いえ浜路。それは少し丈が短いのでは」
「何よ荘介。女の子のお洒落に口を挟むの?可愛く着飾って蝶よ花よと愛でなきゃ。その甲斐性くらい持ち合わせてて欲しいわ〜」
「うん。汐慧にはこっちの似合う」
スっと目の前に差し出されたのは浜路のコレクションの中で一番白の面積が多いシンプルだけど素材のいいワンピースだった。でもそれを差しだしたのはセツで。
『セツ…いつの間に。信乃と下に居たんじゃ』
「あら雪慈はセンスいいわね!コレにしましょ!」
「保護者は常に外敵から子供を護る義務があるからな。外敵から」
「それで何故俺の方へ寄ってくるんですか?」
「いや、俺のレーダー探知機が微弱だがお前を外敵と認識したからだ」
『セツったら』
「荘介と変わらないくらい過保護ね、雪慈って」
『はははは』
笑うしかなかった。でも下から聴こえて来た信乃の声に皆、意識は事の事件へと向ける。
「お前、もう帰れ」
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