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「ここが神家の屋敷だ」



莉芳に車で案内されて降り立った立派な屋敷の目の前で、三人は横一列に背の順で並びながら、口をポカリと開けている。あまりにも立派な屋敷に驚きを隠せない。
すると、いきなり玄関の扉が開かれ、そこから目的である浜路の姿が視界に入る。



「信乃、荘介!!」



そう彼女が叫ぶように言うと信乃の顔面にヒール7センチの黒い彼女のお気に入りの靴がクリティカルヒットした。流石、浜路の投球に無駄はない。



「遅い!今まで一体何してたの、アンタ達!!」
「え、あぁ、ごめん」



憤慨している浜路の元気な様子にまずは安心する信乃だが、彼女が怒っているのでとりあえず謝る。だが、浜路は少しだけ鼻をすするように泣きだしてしまう。普段の彼女からは想像がつかない覇気のなさで信乃に抱きつく。そんな浜路に戸惑いながらも背中に腕を回して抱きしめる信乃。



「何?どっか痛いのか?それとも何か嫌なことされたのか!?あ…のキツネ共。やっぱただじゃおかねぇ!!」
「ううん。狐ちゃん達は悪くないの。新しいお洋服も靴もここぞとばかりに買ってもらえたし。三食昼寝付きでけっこー楽しかったわ」
「え……」
「このセレブな生活も今日で終わりかと思うと…」
「そりゃ結構なおもてなしだったな」
「君さえよければずっと居てくれてもいいんだけどね。尾崎要だ、よろしく」



そう言って玄関口で丁寧に頭を下げる要に四人が振り返り視線を合わせる。周囲に居る五孤が絶句していた。



「お前か!浜路と汐慧を誘拐したのは!?」
「誘拐じゃない。御招待したんだよ?四獣神家の屋敷へようこそ。さあ、中に入って。君達のもう一人の愛らしい子も待ってるよ?」



そんな事を言う要は既に室内に入り「 汐慧どこだ? 」と浜路に質問している信乃を案内するように浜路が「 こっちよ 」と言って絨毯を踏む。そんな要の横を素通りする莉芳。誰も要の話を聞いておらず一人取り残された要は虚しい思いをしながらも静かに彼らの後を追った。



「俺のセンサーがここだと言っている!汐慧!!」



気色の悪いことを言い放ちながら勢いよく扉を開け放つ雪慈に、信乃たちは呆れ気味に聞き流していた。だが、次の瞬間。彼らの目に飛び込んで来たのは…白くて大きな犬神である八房の毛並みの感触を楽しみながら抱きついている元気な汐慧の姿を目撃することとなる。



『もふもふ』



上機嫌で歌でも歌っているような彼女の楽度に、心配して来た信乃たちは全員壁にもたれかかる。あまつさえ浜路までもがそのような態度を取った。



「誰だよ、血の気のない顔色して寝込んでるって言った奴」
「仕方ないじゃない。私がみたのは三日前なんだもの」
「三日前だけで断定して俺たちに聴かせないでくださいよ、浜路」
「…俺の勘違いか。すまんな荘介、殴って」

「「えぇ!!」」

「ここに居たのか、お前は」
「え!?莉芳、知らなかったの?」



それぞれが口々に言うものだから、流石の汐慧も気がついて視線を向ける。そして、何事もなかったような顔をして。



『あ、セツ。おはよう』



そう言った。その発言に雪慈は深い溜息を吐いて壁に背もたれを預けて髪を掻きあげた。



「目が覚めたら連絡しろよ。心配しただろう」
『ごめん、忘れてた』



能天気にそんなことを言う汐慧に雪慈はいつものことだと思いながら安堵の笑顔を浮かべて笑った。そんな雪慈たちを見守ってから信乃が汐慧に向かって駆けよりベットに下半身を埋めたままの彼女の腰に抱きついた。



「汐慧、元気そうだな!雪慈の話だと最悪目覚めないって言われて心配したぞ」
『セツは大げさだから気にしないで。それより、信乃は元気そうだね』
「ああ!ここ結構うまいもんあるから食いに行こうぜ!」
『そうなんだ』



楽しそうに見て来た事を語る信乃の頭を優しい指通りで撫でている汐慧の姿に、八房が鼻を鳴らして信乃の頭をそっと持ち上げた前足でぎゅむっと踏みつけた。



「うぎゃ!」
『信乃!?八房、だめだめ!』



前足をとんとん叩きながらどかせると潰されてしまった信乃の頭部を撫でてあげる。けれど八房は擦り寄るように汐慧に甘えた。『 くすぐったいな 』と呟く彼女に信乃は羨ましい視線を止められない。そんな彼らの姿に浜路は膨れながら交ざるように首元に腕を回して後ろから抱きつく。



「午後から要が案内してくれるから一緒に行きましょう」
『浜路は服を新調したの?可愛いね』
「汐慧の分もあるから着替えが楽しみだわ!」
『あ、私動きやすいのがいい「フリルたっぷりの可愛いのでいくわよ!」



全く話を聞いていない浜路に、項垂れる汐慧。
そんな幼馴染二人が自然に馴染む光景に荘介はどこか緊張した面持ちで近寄り、目の前まで来ると彼女は荘介の気配に気が付き顔をあげる。そうして、彼が荘介だとわかると思い出したかのように笑みを浮かべて。



『おかえり』



それだけを発した。それは、あの日荘介に言えなかった言葉。そして荘介も聴きたかった言葉なだけに、荘介はどこかふっきれたかのように笑いだした。突如笑いだした荘介に信乃と浜路も小首を傾げる。一頻笑い終えると荘介は晴れやかな表情で言うから汐慧は複雑な表情をする。



「あなたには敵いそうにもありませんね」
『それ褒め言葉?』
「はい。最上級の」



受け入れ難いので素直に縦に振れない首を汐慧は『 うーん 』と唸る。和気藹々とした雰囲気の室内の外では莉芳が遠巻きにその光景を眺めていた。そんな莉芳の態度に要は怪訝な顔をして莉芳に問い掛ける。



「いいわけ?混ざらなくて」
「何故」
「何故って…だって、ずっと待ち焦がれて来た娘なんじゃないの?汐慧」



その問いかけに莉芳は表情一つ変えることなく振り返り要たちに背を向けた。



「別に構わん。…これからはいつでも会えるだ、焦る必要もないだろう」
「余裕だね、莉芳」



面白そうに笑う要に対して莉芳は「 口を慎め 」と諭し八房を呼びつけ颯爽と去って行った。そんな彼の後姿を眺めながら要は口元をニヤつかせた。



「退屈しなさそうだな…。浜路、汐慧。軽めの昼食を取ったら出掛けようか」
「わかったわ。行きましょう汐慧」
『うん』



浜路の差し伸ばされた手に手を重ねて汐慧は立ち上がり昼食を食べるために室内を後にした。

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